「高関節」全開!克明なアプローチで臨んだマーラーの「第7番」
サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番に、マーラーの交響曲第7番「夜の歌」と一風変わった組み合わせは、常任指揮者・高関健によるとバッハの影響が共通なのだという。
5曲あるサン=サーンスのピアノ協奏曲で演奏頻度が比較的高い第2番は、華麗な技巧を要求する佳品。古くはアルトゥール・ルービンシュタイン、最近ではランランといった名手が得意としてきた。当日の独奏者、奥井紫麻は、その点で資質は十分。余裕をもって難しいパッセージをこなしつつ、大げさな演出は避け、曲の特質を優美に引き出す率直なピアニズムが好ましい。
第1楽章冒頭のカデンツァ風のソロから、硬軟のメリハリが利いた多彩なタッチで、バッハ風の古典的な格調を表出。楽章を追うごとにテンポが速まっても、決して力ずくで押し切らず、オケとの対話を楽しみながらチャーミングな表情を作り出した。期待の逸材だ。
後半がマーラーでも特異な印象のある第7番。高関は学生時代から興味を持ち、ベルリン・フィルでヴィオラのエキストラを初体験したのも、本作だったという。新校訂版の編さんに関わり、完成譜の謝辞に名前が載るほどの入れ込みようだ。それだけに当日も、スコアの細密な読みを音化する克明なアプローチで、作品の構造やテクスチュアを徹底的に洗い出した。
往年の名指揮者メンゲルベルクが遺したマーラー直伝の指示も反映した譜面から浮かぶディテールは、実に新鮮。フレージングの切る、つなげる、アクセントの付け方から、思わぬ対旋律やパートの強調、音色や強弱の対比、さらに聴いたことのない音使いまで、どこを取っても「高関節」が全開となった。
高関の確信に満ちた解釈へ必死に寄り添った東京シティ・フィルも健闘。第2、4楽章では野太いホルンの独奏(谷あかね)が好演した。トライアングルやカウベルが5個登場してのクライマックスなど、視覚的にも抜群の面白さだった。
この曲の表題性にとらわれず、実験的でモダンな音響体を赤裸々に提示する手法は、近年のスマートに洗練された志向と相当異なる。2022年夏のサントリー音楽賞受賞記念コンサートから短いスパンでの再挑戦には、こういう演奏がしたかったからか、と得心がいった。
(深瀬満)
公演データ
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第375回定期演奏会
1月17日(金)19:00東京オペラシティ コンサートホール
指揮:高関 健(常任指揮者)
ピアノ:奥井 紫麻
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
プログラム
サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番ト短調 作品22
マーラー:交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
ソリスト・アンコール
ラフマニノフ:前奏曲集より第2番Op.23-2
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。