親密な響き、品格ある歌声と透明度の高い合唱がホールを祝福感で満たす
サントリーホール恒例となった「聖夜のメサイア」は2001年の開始以来、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が舞台に立ち続けてきた。昨年は創設者の音楽監督、鈴木雅明がケガで降板し、息子の首席指揮者、優人がピンチヒッターを務めた。
ことしは晴れて優人の指揮が当初からアナウンスされ、本番を迎えた。それを祝ってか独唱陣が豪華で、ソプラノにレイチェル・ニコルズ、アルト(カウンターテナー)はアレクサンダー・チャンス、テノールに櫻田亮、バス(バリトン)に加耒徹と実力者がそろった。
宗教曲で鍛えられた合唱団を持つBCJは、ヘンデルのオラトリオでも理想的な演奏団体といっていい。優人はピリオド楽器のオーケストラおよびソリスト、コーラスを柔軟に束ね、スムーズに流れる「メサイア」を導いた。
冒頭の「偉大なる出来事を歌おう」の朗読に続いて始まった第1部から、優人の身上である線の柔らかい親密な響きが現れ、威圧感のない軽妙な足取りで祝祭的な気分を高めていく。BCJ公演の屋台骨を支える男声陣、テノールの櫻田は折り目正しい明快な歌唱を聴かせ、バリトンの加耒は決然たる表情で凜とした品格を打ち出す。透明度の高いハーモニーを保つ精妙な合唱も大きく寄与した。
第6曲の有名なアリア「だが彼の到来する日に誰が耐えられるだろうか」では、チャンスが弾力性ある声質と清潔な歌い口で、テキストをくっきり提示。第16曲のソプラノのアリア「大いに喜べ、シオンの娘よ」でニコルズは、輪郭の明確な浸透力ある美声で、はじけるような祝福感を表した。第2部最後の「ハレルヤ」コーラスではソリストも合唱に加わり、力強く結んだ。
今回の公演ではナチュラル・トランペットの名手、ジャン=フランソワ・マドゥフを招いたのも大きな特徴。特に効果的だったのは第3部のバスのアリア「トランペットが鳴り響くと」で、舞台下手に陣取ったマドゥフが、気迫のこもった歌唱を繰り広げる加耒と渡り合い、演奏が困難な楽器を、楽々と操って度肝を抜いた。
アンコールではサンタ帽をかぶった優人が、合唱と優美な「きよしこの夜」を披露し、締めくくった。
(深瀬満)
公演データ
サントリーホール クリスマスコンサート2024
バッハ・コレギウム・ジャパン「聖夜のメサイア」
12月24日(火)18時30分サントリーホール
指揮:鈴木優人
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
ソプラノ:レイチェル・ニコルズ
アルト(カウンターテナー):アレクサンダー・チャンス
テノール:櫻田亮
バス(バリトン):加耒徹
プログラム
ヘンデル:オラトリオ「メサイア」HWV56
アンコール
グルーバー(鈴木優人編):きよしこの夜
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。