鈴木優人指揮 読売日本交響楽団第643回定期演奏会

時代を超え響き合う刺激的なベリオとモーツァルト

読響の指揮者/クリエイティブ・パートナーの鈴木優人によるベリオ:シンフォニアとモーツァルト:レクイエムを組み合わせた斬新なプログラム。演奏は充実の極みで、ベリオとモーツァルトが時代を超え、文字通り〝シンフォニア:ともに響き合う〟刺激的なコンサートとなった。

ベリオ:シンフォニアとモーツァルト:レクイエムを組み合わせた斬新なプログラムを披露した©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ベリオ:シンフォニアとモーツァルト:レクイエムを組み合わせた斬新なプログラムを披露した©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

ベリオ:シンフォニアは8人の声楽アンサンブルと大規模オーケストラによる作品。第3楽章ではマーラーの交響曲第2番〝復活〟第3楽章を下敷きにバッハ、ベートーヴェン、ベルリオーズ、ブラームス、ストラヴィンスキー他の作品の断片やベケットの小説やパリ5月革命のスローガンなどが引用され、多層的な音楽コラージュが展開される。

鈴木読響の色彩豊かでダイナミックな演奏の中にあっても、RIAS室内合唱団員8人の語りは明解に聞こえる。音響担当の有馬純寿と合唱指揮のオラフ・カッツァーの貢献が大きかった。
第3楽章のコーダでは団員の一人吉田志門(テノール)が「サンキュー、ミスターマサト・スズキ」と締めたので客席から笑いも起きたが、これはベリオが譜面に〝当日の指揮者の名前を言うこと〟と指示しているため。

指揮者の鈴木優人。第3楽章のコーダでは、譜面の指示通り、テノールの吉田志門から、当日の指揮者として名前を言われる場面もあった©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
指揮者の鈴木優人。第3楽章のコーダでは、譜面の指示通り、テノールの吉田志門から、当日の指揮者として名前を言われる場面もあった©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

モーツァルト〝レクイエム〟は、鈴木優人補筆校訂版(2013年)が使用された。ジュスマイヤー版と異なるのは2点。モーツァルトの弟子アイブラーによるラクリモーザを除くセクエンツィアにつけたオーケストレーションを取り入れたこと、ラクリモーザのあとに、1962年に発見されたアーメン・フーガのスケッチに基づくアーメンが追加されていること。ただ、ジュスマイヤーもアイブラーの補筆を参考にしたので、大きな違いはない。

RIAS室内合唱団は33名の編成。発音が明晰で、柔らかく温かなハーモニーに感銘を受けた。合唱指揮はジャスティン・ドイル。来日しており演奏後ステージに登場した。
ソリスト4人も素晴らしく、ソプラノのジョアン・ランの透明感、メゾ・ソプラノのオリヴィア・フェアミューレンの柔らかさ、テノールのニック・プリッチャードの繊細さ、バスのドミニク・ヴェルナーの深み、で魅了。重唱のバランスも完璧。
合唱、ソリストともに歌詞の表現に深みがあることが印象的だった。

ソリスト4人が合唱とともに素晴らしい歌声を聴かせた©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ソリスト4人が合唱とともに素晴らしい歌声を聴かせた©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

読響はヴィブラートのないすっきりとした響き。トロンボーンが第4曲トゥーバ・ミルムで好演。鈴木は声楽陣とオーケストラのバランスを取りながら、早めのテンポで進めた。
アンコールはソリストも合唱に加わり、モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプスが清らかに歌われた。

(長谷川京介)

公演データ

読売日本交響楽団第643回定期演奏会

12月3日(火)19:00サントリーホール大ホール

指揮:鈴木優人
ソプラノ:ジョアン・ラン
メゾ・ソプラノ:オリヴィア・フェアミューレン
テノール:ニック・プリッチャード
バス:ドミニク・ヴェルナー
合唱:ベルリンRIAS室内合唱団
合唱指揮:ジャスティン・ドイル

(ベリオ作品)
ベルリンRIAS室内合唱団メンバー
ソプラノ:アンゲラ・ポストヴァイラー、エスター・チムケ
アルト:スザンネ・ラングナー、ヒルデガルト・リューツェル
テノール:フォルカー・ニーツケ、吉田志門
バス:マティアス・ルツェ、ジョナサン・E.デ・ラ・パズ・ザエンス
合唱指揮:オラフ・カッツァー
音響:有馬純寿

特別客演コンサートマスター:日下紗矢子

プログラム
ベリオ:シンフォニア
モーツァルト:レクイエム ニ短調K.626(鈴木優人補筆校訂版)

アンコール
モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス

 

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長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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