山田和樹が得意のフランス・プログラムで明快な音楽作り
11月最初のN響定期演奏会に登場した山田和樹、先月同団でブロムシュテット、デュトワを聴いた後ということもあり、登場しただけでその若さが引き立つようだ。今回満を持して得意とするフランス・プログラムを中心とした演奏には〝熱血〟という山田の持ち味と、聴き手の心を捉えてやまない歌心が存分に発揮されていた。
幕開けはルーセルのバレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」、16型のオーケストラがよく鳴り、物語の英雄の登場にふさわしい。木管の憂いのある〝迷宮の踊り〟や弦楽器が滔々(とうとう)と歌う〝バッカスの踊り〟など変化に富む音楽は雄弁だ。濃淡がはっきりした表現は後半のラヴェル、ドビュッシーでも同様で、明快な音楽作りが全体を貫いていたが、秀逸だったのは抒情的で繊細な表現だった。
ラヴェルの「優雅で感傷的なワルツ」の5曲目「ほとんどレントの速さで」や7曲目「エピローグ:ゆっくりと」はまさにタイトルの通りで、ソロを担う木管奏者の洗練された感覚や、オーケストラ全体で浮遊感のある響きは山田の得意とするところ。ドビュッシーでは「イベリア」というタイトル通り異国情緒から、艶めかしい官能的な歌、多彩な奏法による高揚感と明快に振り分けた。
ピエモンテージをソリストに迎えたバルトークのピアノ協奏曲第3番、しなやかな手の動きと粒たちの良い音に魅了される。特に第2楽章で心の叫びのようなコラールとそれに呼応するオーケストラ、第3楽章でのヴィルトォーゾ性とフーガでの曲想の変化など作曲家が最期に描いた音楽の風景を見事に表現。アンコールはケンプ編曲のバッハで華麗かつ壮観な演奏だった。
N響定期で2016年以来となるフランス・プログラムを成功させた山田和樹、来年はベルリン・フィルの定期演奏会にデビューする。メインにはフランスもの、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」を選んだ。これまで培ってきた全ての経験が生かされて更なる飛躍となることを楽しみにしよう。
(毬沙 琳)
※取材は11月9日の公演
公演データ
NHK交響楽団 第2022回 定期演奏会Aプログラム
11月9日(土)18:00、10日(日)14:00 NHKホール
指揮:山田和樹
ピアノ:フランチェスコ・ピエモンテージ
管弦楽:NHK交響楽団
プログラム
ルーセル:バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」Op.43―組曲 第1番
バルトーク:ピアノ協奏曲 第3番
ラヴェル:優雅で感傷的なワルツ
ドビュッシー:管弦楽のための「映像」―「イベリア」
ソリスト・アンコール
バッハ(ケンプ編):「目を覚ませと呼ぶ声が聞こえ」BWV645
まるしゃ・りん
大手メディア企業勤務の傍ら、音楽ジャーナリストとしてクラシック音楽やオペラ公演などの取材活動を行う。近年はドイツ・バイロイト音楽祭を頻繁に訪れるなどし、ワーグナーを中心とした海外オペラ上演の最先端を取材。在京のオーケストラ事情にも精通している。