アラン・アルティノグル指揮 フランクフルト放送交響楽団 日本公演

マーラー・ブームの火付け役となったフランクフルト放送響がアルティノグルの指揮で新しいマーラー像を示した

フランクフルト放送交響楽団(hr交響楽団)来日公演初日。指揮は2021年から音楽監督を務めるアラン・アルティノグル。アルメニアにルーツを持つフランス人でこれまでベルリン・フィル、ウィーン・フィル、バイロイト音楽祭、ウィーン国立歌劇場等の名門オケ、オペラの指揮台に立ち好評価を得るなど目覚ましい進境ぶりをみせている注目株だ。

2021年からhr交響楽団の音楽監督を務めるアラン・アルティノグルが登場 20241015フランクフルト放送交響楽団(C)Junichirou Matsuo
2021年からhr交響楽団の音楽監督を務めるアラン・アルティノグルが登場 20241015フランクフルト放送交響楽団(C)Junichirou Matsuo

1曲目は第18回ショパン国際ピアノ・コンクールの覇者ブルース・リウをソリストにベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番。イタリアのFAZIOLI(ファツィオリ)を使用してのリウの独奏は音の粒立ちと弱音の美しさが際立っており、ベートーヴェン演奏の定番ともいえるダイナミックさや構造美の表出よりも繊細さ、流麗さを前面に出したスタイル。アルティノグルによるバランス重視の音作りともうまくかみ合っていた。圧巻はアンコールとして弾いたショパンの幻想即興曲嬰ハ短調。超絶技巧に裏打ちされたスタイリッシュな彼のショパンの世界が全開になった印象を受けた。

ブルース・リウがソリストを務めたベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番」 20241015フランクフルト放送交響楽団(C)Junichirou Matsuo
ブルース・リウがソリストを務めたベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番」 20241015フランクフルト放送交響楽団(C)Junichirou Matsuo

後半のマーラー5番は古くからのファンにはある種の思い入れを抱いて耳を傾けた人もいたはずだ。1980年代、エリアフ・インバル指揮、同響によるマーラー・ツィクルスのCDと演奏会での名演が日本国内における第1次マーラー・ブームの火付け役となったからだ。とはいえ、約40年が経過しこのオケによるマーラー演奏も大きく変貌していた。金管や打楽器など一部パートを突出させることなく、響きのバランスを精密に整えて、内声部や対旋律をクリアに聴かせ、この曲に内在している対位法の妙味を巧みに表わしていた。特に弱音における繊細な表現は目を見張るものがあり、音量を極限まで落としているにもかかわらず音程の微妙な移り変わりが意味をもって聴き取れるなど、新しい時代のマーラーともいうべき秀演であった。

(宮嶋 極)

新しい時代のマーラー像を示した「5番」だった 20241015フランクフルト放送交響楽団(C)Junichirou Matsuo
新しい時代のマーラー像を示した「5番」だった 20241015フランクフルト放送交響楽団(C)Junichirou Matsuo

公演データ

フランクフルト放送交響楽団 日本公演

10月15日(火)19:00 サントリーホール

指揮:アラン・アルティノグル
ピアノ:ブルース・リウ
管弦楽:フランクフルト放送交響楽団

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調Op.73「皇帝」
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

ソリスト・アンコール
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調Op.66

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宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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