小林研一郎指揮 読売日本交響楽団第269回土曜マチネーシリーズ

オーケストラを聴く醍醐味 巨匠小林研一郎の至芸

今年84歳の小林研一郎。今や巨匠としての風格とオーラがあり、指揮台に立つだけで楽員の心をわしづかみにする。繊細を極めた響きから巨大な音響まで、最小限の動きでオーケストラを自在に動かす指揮は至芸と言うほかない。

グリンカ歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲は、小林のわずかな動きに読響が敏感に反応、一糸乱れぬ豪快な演奏となった。

巨匠の風格を示した小林研一郎 ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
巨匠の風格を示した小林研一郎 ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

2004年ロシア生まれ20歳の若きピアニスト、エヴァ・ゲヴォルギヤンによるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。小林読響はゲヴォルギヤンにきめ細かく寄り添い、重厚かつ繊細な演奏で包み込む。ゲヴォルギヤンは旋律をロマンティックに歌い上げ、カデンツァも華麗だが、経験の浅さか表情が時に単調となり、オーケストラと緊密に対話しながら演奏を深めるまでには至らない。 

しかし、アンコールのチャイコフスキー(プレトニョフ編)「くるみ割り人形」から〝アンダンテ・マエストーソ〟は流れるように美しいアルペジオと歌に満ち、将来への期待が膨らんだ。

小林は若いゲヴォルギヤンの演奏にきめ細かく寄り添った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
小林は若いゲヴォルギヤンの演奏にきめ細かく寄り添った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

ムソルグスキー(ラヴェル編)組曲「展覧会の絵」は、小林の至芸がいかんなく発揮された名演。テンポは遅めで構えが大きく、細部まで表情豊かに描かれる。読響は小林への敬意が感じられる渾身(こんしん)の演奏を展開した。 

冒頭〝プロムナード〟でのトランペットの輝き、第3曲〝古城〟のサクソフォンと第4曲〝ビドロ〟のテューバのまろやかな響き、第5曲〝殻をつけた雛鳥(ひなどり)のバレエ〟の生き生きとした表情、第6曲〝サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ〟の重厚な低弦とトランペットの高音の鮮烈なコントラスト、第8曲〝カタコンブ〟の力強い金管など、いずれも充実の極み。

巨匠コバケンへの敬意を感じさせる渾身の演奏を繰り広げた読響 ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
巨匠コバケンへの敬意を感じさせる渾身の演奏を繰り広げた読響 ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

第10曲〝キエフ(キーウ)の大門〟は堂々とした主題と静かなコラールの対照が鮮やか。鐘が響き渡り、雪崩打つ下降音型から絶妙な終止を経て、劇的なクライマックスへ至るスリリングな転換が実に見事。絢爛(けんらん)豪華な管弦楽の饗宴はまさにオーケストラを聴く醍醐味(だいごみ)だった。 

アンコールとして、マスカーニ歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲がしみじみと演奏された。
(長谷川京介)

公演データ

読売日本交響楽団 第269回土曜マチネーシリーズ

8月24日(土)14:00 東京芸術劇場コンサートホール
指揮:小林研一郎
ピアノ:エヴァ・ゲヴォルギヤン
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:長原幸太

プログラム
グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」

Picture of 長谷川京介
長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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