佐渡裕指揮 兵庫芸術文化センター管弦楽団 フェスタサマーミューザ KAWASAKI2024

チャレンジングな演目も含め、コンサート全体が1つのエンタテインメントに!

フェスタサマーミューザ近年恒例の地方楽団の公演の1つ、佐渡裕指揮/兵庫芸術文化センター管弦楽団の演奏会。同楽団はアカデミーの要素と人気コンサート・オケの要素を併せ持つ。よって判断目線の置き方が難しい。

兵庫芸術文化センター管弦楽団芸術監督の佐渡裕(C)N.Ikegami
兵庫芸術文化センター管弦楽団芸術監督の佐渡裕(C)N.Ikegami

いずれにせよ前半はソリスト=トランペットのセリーナ・オットの独壇場。20世紀の定番アルチュニアンの協奏曲は、華麗な音となめらかな運びでストレートな好演が展開される。ただし同曲特有のアルメニアの民族色はさほど強調されず、洗練された味わいが勝る。次のベルシュテットの「ナポリ」は、「フニクリ・フニクラ」の旋律に基づく変奏曲。超絶技巧満載のショウピースだが、オットはこれも光輝な音で軽やかに奏でる。力みなく鮮やかな両曲の演奏は一種の爽快感をもたらした。

プログラム前半は、トランペットのセリーナ・オットの華麗な音が鳴り響いた(C)N.Ikegami
プログラム前半は、トランペットのセリーナ・オットの華麗な音が鳴り響いた(C)N.Ikegami

後半のシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」は、4管編成・単一楽章で40分強のチャレンジングな演目。そこで佐渡は全曲演奏の前に、ライト・モティーフや重要な場面を抜粋して聴かせ、聴衆の理解を助けた。

演奏をまずテクニカルな面でみると、著名奏者揃いのコーチ陣を含む陣容、すでに地元で3回演奏している点、ホールの特性など、様々な要素が味方しているとはいえ、予想以上に高機能で重層的だ。
表現自体は、全体に速めのテンポで進む、曲に付き物の「トリスタン」色や粘り気を排した音楽。大きく4つに分かれた各部の音質や音色、音量の変化が少ない、首尾一貫したトーンで運ばれた。筆者は各部の明確な変化や肝となる場面のより濃厚な表現を望みたいが、こうしたスムーズなアプローチを好む人もいるだろう。

シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」(C)N.Ikegami
シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」(C)N.Ikegami

その後にアンコールが2曲。最初のハチャトゥリアン「仮面舞踏会」の「ワルツ」は、この大編成で聴くと実に豪快だ。そして最後は「すみれの花咲く頃」。シェーンベルクを取り上げてなお、コンサート全体を1つのエンタテインメントに仕立てるあたり、さすが佐渡といった感。

(柴田克彦)

公演データ

兵庫芸術文化センター管弦楽団 フェスタサマーミューザ KAWASAKI2024

8月5日(月)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:佐渡 裕(兵庫芸術文化センター管弦楽団 芸術監督)
トランペット:セリーナ・オット
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

プログラム
アルチュニアン:トランペット協奏曲 変イ長調
ベルシュテット:ナポリ〜トランペットのためのナポリ民謡の変奏曲
シェーンベルク:交響詩「ペレアスとメリザンド」Op.5

ソリスト・アンコール
シャルリエ・テオ:エチュードNo.9

オーケストラ・アンコール
ハチャトゥリアン:仮面舞踏会より「ワルツ」
F.デーレ:すみれの花咲く頃

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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