山響の真骨頂!音色と形式美を巧みに弾き分けた〝両A面〟プログラム
同内容の東京公演、大阪公演に先立つ定期プログラム、前半はモーツァルトの「魔笛」と「戴冠式ミサ」、後半は19世紀ヴィクトル・ネスラーの歌劇「ゼッキンゲンのトランペット吹き」に基づくニキシュのファンタジー、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」と、古典派とロマン派を味わい尽くす両A面といった趣。それらをすべて基本は2管8型、合唱団も自前の山響アマデウスコアを伴い、音色と形式美を巧みに弾き分けてしまうのが山響の真骨頂か(前半はオリジナル楽器を使用)。
「魔笛」では柔らかな阪の手の動きそのままに伸縮自在な旋律を軽やかに紡ぎ、続く「戴冠式ミサ」では瞬時の減衰や音色の変化を使い分けた端正な構築。キリエの陰影に富んだデュナーミク、弧を描くように強拍のアクセントを推進力に組み上げられたクレドの壮麗さ、その転調部における明光が差し込むような色彩の変化など、精緻に音楽を運んだ。またアニュス・デイにおける老田裕子(ソプラノ)の芯を感じさせないふくよかなソロは教会の響きを彷彿とさせ、阪たっての起用というのも頷ける。
しかし招聘ソリストに並び、あるいはそれ以上に逸材ぶりを見せたのが、かの大指揮者アルトゥール・ニキシュのファンタジーにおける、同響首席トランペット奏者の井上直樹だった。流麗な管弦楽にリードされ、往年の演奏家を彷彿とさせるような高らかで微細な起伏に富む音色が、一際印象深い。
続くブラームスは辻彩奈(ヴァイオリン)、上野通明(チェロ)を起用して高密度のアンサンブルを聴かせたが、推進力をもってややシャープに旋律を運ぶ辻に対し、辻との対話に神経を注ぎつつ、抑制が取れ、掛け合いの重心をグッと下げるような上野の旋律運びとバランスが見事。対向配置のオーケストラも、前曲との対比が際立つ重さと優美さを兼ね揃えた作りでこれに呼応した。
さて、20日には東京、21日には大阪公演で予定される同プログラム。皆さんはどうお聴きになるだろうか。
(正木裕美)
公演データ
山形交響楽団 第318回定期演奏会
2024年6月16日(日) 15:00 山形テルサホール
指揮:阪 哲朗
ヴァイオリン:辻 彩奈
チェロ:上野 通明
ソプラノ:老田 裕子
アルト:在原 泉
テノール:鏡 貴之
バリトン:井上 雅人
合唱:山響アマデウスコア
管弦楽:山形交響楽団
プログラム
モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620 序曲
モーツァルト:ミサ曲 ハ長調「戴冠式ミサ」K.317
ニキシュ:ファンタジー(オペラ 「ゼッキンゲンのトランペット吹き」 のモチーフによる)
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102
まさき・ひろみ
クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在はフリーランスで編集・執筆を行う。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に取り組んだ。日本演奏連盟「演奏年鑑」東北の音楽概況執筆担当。日本芸術文化振興会 芸術文化振興基金運営委員会 音楽専門委員。