シルヴァン・カンブルラン指揮 読売日本交響楽団第637回定期演奏会

〝張り詰めた深み〟に貫かれた希有(けう)なコンサート

読響の新シーズン開幕定期は、桂冠指揮者シルヴァン・カンブルランが振る、マルティヌー「リディツェへの追悼」、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番(独奏:金川真弓)、メシアン「キリストの昇天」というプログラム。全て大戦を意識させる1933~43年の完成作で、前半2人はナチスの支配を避けて渡米した作曲家。全体が何らかの形で「死」と結び付く内容でもある。まずは、この媚(こび)のない、しかし現世に相応(ふさわ)しいプロを敢行した関係者の度量を讃(たた)えたい。

バルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番」より。金川が見事な独奏を披露した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
バルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番」より。金川が見事な独奏を披露した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

マルティヌー作品は、冒頭の響きから聴く者を震撼(しんかん)させ、カンブルランらしいデリケートさを保ちながらも、重層的で深い音と音楽が続いていく。
バルトークの協奏曲は、豊麗・豊潤でいながら引き締まった音で、曲が持つ孤独感や緊張感を描出した金川の独奏が見事。バック共々シリアスな深みも維持されている。ここで重要なのは、金川が何度呼び戻されてもアンコールを弾かなかった点。こうしたコンセプチャルな公演─しかもオケの定期─で、全く関係のない小品を弾く無神経なソリストもいる中、彼女はさすがだ。

作品の特質を緻密に表出したメシアン「キリストの昇天」 ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
作品の特質を緻密に表出したメシアン「キリストの昇天」 ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

それゆえメシアン作品の「救い」が映える。第1楽章は金管の芳醇(ほうじゅん)なコラール風の動きが敬虔(けいけん)な趣を、第2楽章は好演の木管勢を主体とした音の綾がピュアな空気感を醸し出す。第3楽章は華麗で生き生きとして鮮やか。そして第4楽章の静謐(せいひつ)な昇天へと至る。清澄さとカラフルさを併せ持つ作品の特質を緻密に表出したこの演奏は、じんわりと胸に染みる。
これは〝張り詰めた深み〟ともいうべきトーンに貫かれた、滅多に味わえないコンサートだった。
(柴田克彦)

公演データ

読売日本交響楽団第637回定期演奏会
2024年4月5日19:00サントリーホール

指揮:シルヴァン・カンブルラン
ヴァイオリン:金川真弓
管弦楽:読売日本交響楽

プログラム
マルティヌー:リディツェへの追悼 H. 296
バルトーク : ヴァイオリン協奏曲第2番 BB 117
メシアン:キリストの昇天

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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