大野和士指揮 東京都交響楽団第996回定期演奏会Bシリーズ

大野と都響の緊密な関係性の為(な)せるわざ――新シーズンの幕開けを堂々と飾った快演

東京都響の新シーズンが開幕した。生誕200周年を迎えたブルックナーの交響曲から、先月の新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」公演の余韻もあって「ワーグナー」の俗称がある第3番がメーン。前段では同じ舞台でみごとなブランゲーネ役を披露した藤村実穂子を起用し、アルマ・マーラーの歌曲集を日本初演と、大野和士音楽監督らしい味な構成だ。

大野音楽監督が都響の新シーズンの幕開けに選んだのは、日本初演となるアルマ・マーラーの歌曲とブルックナー第3番©堀田力丸/東京都交響楽団提供
大野音楽監督が都響の新シーズンの幕開けに選んだのは、日本初演となるアルマ・マーラーの歌曲とブルックナー第3番©堀田力丸/東京都交響楽団提供

アルマと夫・グスタフの複雑な関係などから生まれた歌曲集2作品から7曲を選び出し、英国の現代作曲家デイヴィッド&コリン・マシューズがオーケストレーションを施したのが「7つの歌」。藤村はキレの良いディクションで、丁寧に歌い込んだ。
1曲目「静かな街」から、黒光りするような艶のある深々とした声で魅了。落ち着いた温かな情感を通わせ、テキストに共感を寄せた。オケをたっぷり鳴らす編曲は色彩的で、大野はデリケートに扱ったが、時に声を覆い隠す部分もあった。

日本初演のアルマ・マーラー(D.マシューズ & C.マシューズ編曲)「7つの歌」を、藤村はキレの良いディクションで、丁寧に歌い込んだ©堀田力丸/東京都交響楽団提供
日本初演のアルマ・マーラー(D.マシューズ & C.マシューズ編曲)「7つの歌」を、藤村はキレの良いディクションで、丁寧に歌い込んだ©堀田力丸/東京都交響楽団提供

ブルックナーの交響曲第3番は作曲者が何度か改訂し、版の問題が複雑だ。今回、大野が採用したのは、1876~77年に手が加えられた第2稿によるノヴァーク版。
大野は持ち前のエスプレッシーヴォな気質を発揮し、ダイナミックでメリハリの利いた快演を冒頭楽章から展開。主題の性格を明確にし、引き締まった解釈で突き進んだ。

 

弦楽セクションのボウイング(弓使い)が奏者の前から後ろまでピタリとそろい、美しいのは、都響の大きな美点のひとつ。第2楽章でその威力が発揮され、柔らかい弱音から壮大な頂点まで、精緻なコントロールが行き渡っていた。木管の冴(さ)えた質感もいい。
第3楽章で大野は、主部の野性味と優美なトリオを意識的に対比し、この版独特の41小節のコーダを一気にたたみ込んだ。終楽章では第2稿の特徴を効果的に浮き彫りにし、他の稿との相違にはっと気づかせた。大野と楽団の緊密な関係が好結果をもたらした。

大野の引き締まった解釈と都響の美点があわさり、素晴らしい演奏を聴かせた©堀田力丸/東京都交響楽団提供
大野の引き締まった解釈と都響の美点があわさり、素晴らしい演奏を聴かせた©堀田力丸/東京都交響楽団提供

(深瀬満)

公演データ

東京都交響楽団第996回定期演奏会Bシリーズ

2024年4月3日(水)19:00サントリーホール

指揮:大野和士
メゾソプラノ:藤村実穂子
管弦楽:東京都交響楽団

プログラム
アルマ・マーラー(D.マシューズ & C.マシューズ編曲):7つの歌(日本初演)
ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調 WAB103(ノヴァーク:1877年第2稿)

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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