アレクサンダー・リープライヒ指揮 日本フィルハーモニー交響楽団第758回東京定期演奏会

独創的なプログラムで日本フィルの色彩感や有機性が光った秀演

日本フィルの3月定期は、ドイツの指揮者アレクサンダー・リープライヒが4年半ぶりに登場。三善晃の「魁響の譜」、シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番(独奏:辻彩奈)、シューマンの交響曲第3番「ライン」という独創的なプログラムが披露された。

4年半ぶりに日本フィルを指揮するアレクサンダー・リープライヒ 撮影:堀田力丸
4年半ぶりに日本フィルを指揮するアレクサンダー・リープライヒ 撮影:堀田力丸

「魁響の譜」は、武満徹風のサウンドで始まり、やがて三善ならではの戦慄(せんりつ)的なエネルギーが支配。全体的には豊かな響きによる鮮烈な音楽が展開された。この緻密で的確な演奏には、日本フィルの邦人作品の経験値が生かされた感。アプローチ自体は純器楽的・西欧的だが、それゆえに三善作品の普遍性が示されたともいえるし、こうした機会とその表現は、武満に比べて海外での認知度が低い(と思『おぼ』しき)作曲家・三善晃の見直しに繋(つな)がる点でも意義深い。
3管でピアノも用いた協奏曲にしては巨大な編成のシマノフスキ作品は、独奏が際立ち辛いが、辻彩奈は、管弦楽に埋没しない張りと芯のある音で凛(りん)としたソロを奏で、曲の持つデリカシーや神秘性を表出した。それはあたかも厚めの綿織物の中に絹糸を1本通すが如(ごと)し。日本フィルの色彩感や有機性も光っていた。前半2曲は秀演。

シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番で、凛としたソロを奏でた辻彩奈 撮影:堀田力丸
シマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番で、凛としたソロを奏でた辻彩奈 撮影:堀田力丸

「ライン」は、柔らかく流麗な音楽の中に細かい変化が盛り込まれていくものの、全曲が同一のトーンに終始した。ただしこれには全体をライン川の1本の流れのように描く意図が感じられるし、第4楽章の古雅な輝きなどは新鮮でもあった。同曲はあえて言えばしなやかな好演。

(柴田克彦)

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団第758回東京定期演奏会
2024年3月22日 (金)19:00サントリーホール

指揮:アレクサンダー・リープライヒ
ヴァイオリン:辻彩奈
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

プログラム
三善晃:魁響の譜
シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番 Op.35
シューマン:交響曲第3番「ライン」 変ホ長調 Op.97

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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