チョン・ミョンフン指揮 東京フィル サントリー定期シリーズ

自然をテーマにしたプログラムでチョン&東京フィルの卓越した演奏

東京フィルの定期演奏会に名誉音楽監督、チョン・ミョンフンが登壇。ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」とストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」という自然と関わりの深い2曲が演奏された。

東京フィルの名誉音楽監督 チョン・ミョンフン 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
東京フィルの名誉音楽監督 チョン・ミョンフン 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

「田園」は、チョンが大きな呼吸でチェロとヴィオラの持続音を振り降ろすと、快適なテンポで第1楽章が始まった。自然そのものが鳴っているような、素朴な表情の音楽。楽器という素材が重なり(サラダみたいに)ハーモニーを作り上げる。自然の音に耳を澄ませているような美しい演奏。第2楽章も静かで流れが良い。鳥の鳴き声が微妙に表情を変える。自然を愛(め)でるような演奏である。第3楽章ではホルンの響きが角笛を思わせ、第4楽章の嵐は迫力満点。ベートーヴェンは「絵画的な描写というより、むしろ感情の表出である」と述べたといわれているが、チョン&東京フィルの演奏を聴いていると、ベートーヴェンの自然描写力に感心させられる。そして、第5楽章では自然への感謝が溢(あふ)れ出る。牧人の歌の主題が16分音符で変奏されるところはまるで言葉を話しているかのよう。真に感動的な演奏であった。

絶妙の相性を見せたチョンと東京フィル 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
絶妙の相性を見せたチョンと東京フィル 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

「春の祭典」では、チョンの身体(からだ)と音楽が一体化した、暗譜での指揮が素晴らしい。彼が優れたピアニストであることを想起する。力感溢れ、音楽のキレがよい。そして自然の持つ生命力が音楽を通して体現される。すべてが完璧というわけではなかったが、チョンと東京フィルの結びつきの強さを感じさせる卓越した演奏であったことは確かである。

「愛でる自然」(田園)と「自然そのものの生命力」(春の祭典)。演奏を通してのその描き方の違いも興味深かった。

(山田 治生)

終演後も鳴り止(や)まぬ拍手とステージに再登場して応えるチョンと東京フィルのメンバー 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団
終演後も鳴り止(や)まぬ拍手とステージに再登場して応えるチョンと東京フィルのメンバー 撮影=上野隆文/提供=東京フィルハーモニー交響楽団

公演データ

東京フィルハーモニー交響楽団 第996回サントリー定期シリーズ

2月22日(木)19:00 サントリーホール

指揮:チョン・ミョンフン
コンサートマスター:三浦 章宏

プログラム
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調Op.68「田園」
ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

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山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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