モダン楽器によるモーツァルト演奏の最上の姿が示された演奏会
国際音楽祭NIPPONにおける「モーツァルト ヴァイオリン協奏曲 全曲演奏会」の第一夜。芸術監督・諏訪内晶子の独奏で、第1、2、4番が披露された。バックは、サッシャ・ゲッツェル指揮、国際音楽祭NIPPON フェスティヴァル・オーケストラ(特別編成)である。
まずは諏訪内のソロが、ストレートにして実にこまやか。中でもヴィブラートの有無やかけ方に細心の配慮がなされている。そしてグァルネリ・デル・ジェズから放たれる音が、艶やかで美しい上に芯があって伸びが良く、楽曲にもピタリとフィットする。表現も自然で、典雅さや優美さ、時折のロマン性などが曲想に沿って的確に表出される。伸びやかな第2番第2楽章や、終始鮮やかな演奏で曲の魅力を再認識させた第4番は特に印象的。今回は現在聴き得るモダン楽器のモーツァルト演奏の最上の姿が示されたと言っていい。
管弦楽は、コンサートマスターの白井圭をはじめ名手揃(ぞろ)いの首席陣のリードが功を奏して、小ぶりながら鳴りもまとまりも上々。ゲッツェルの指揮も、交響曲第1番と「アポロとヒアキントゥス」序曲を含めて、強弱や抑揚がきめ細かく、生気に富んでいる。
加えて、こうしたレアなプロに生で触れると、2年を隔てた1→2番はもとより、僅(わず)か4カ月における2→4番の進化の大きさがリアルに感知できる。これぞ音楽祭=特別な機会でこそ可能なチクルスの意義であろう。
ともかく、すこぶる気持ちの良い演奏会。12日の3、5番も楽しみだ。
(柴田克彦)
公演データ
サッシャ・ゲッツェル指揮 国際音楽祭NIPPONフェスティヴァル・オーケストラ
AKIKO SUWANAI Plays モーツァルト ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会 (全2回)
指揮:サッシャ・ゲッツェル
ヴァイオリン:諏訪内晶子
管弦楽:国際音楽祭NIPPONフェスティヴァル・オーケストラ
2024年1月11日(木)19:00東京オペラシティ コンサートホール
<プログラム>
モーツァルト:
交響曲第1番 変ホ長調 K.16
ヴァイオリン協奏曲第1番 変ロ長調 K.207
歌劇「アポロとヒアキントゥス」序曲 K.38
ヴァイオリン協奏曲第2番ニ長調 K.211
ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調 K.218
1月12日(金)19:00東京オペラシティ コンサートホール
<プログラム>
モーツァルト:
交響曲第15番 ト長調 K.124
ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216
ディヴェルティメント ニ長調 K.136
ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」イ長調 K.219
しばた・かつひこ
音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。