クラシック音楽界の〝超新星〟クラウス・マケラが非凡な才能を発揮して聴衆を魅了
クラウス・マケラが指揮するオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の東京公演からリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」をメインにしたAプロ(23日、サントリーホール)を聴いた。
1曲目はショスタコーヴィチの祝典序曲。オケをタップリと鳴らしながらも響きを混濁させることがないマケラの持ち味が冒頭から全開となった鮮やかな演奏。祝典の名にふさわしい高揚感も十分。聴衆がアッという間に彼の音楽世界へと引き込まれたことが、客席の空気感からも伝わってきた。
2曲目は辻井伸行の独奏で、ショスタコ―ヴィチのピアノ協奏曲第2番。後拍の多用など複雑なリズム展開の曲ながら、辻井の起伏に富んだピアノに自然な呼吸感で寄り添っていくマケラとオスロ・フィルのフレキシビリティが素晴らしい。柔軟な支えを得て、辻井も自らの音楽性を自在に表現し、楽しみながら弾いているように映った。盛大な喝采に辻井はカプースチンの8つの演奏会用練習曲よりプレリュードなど2曲をアンコールした。
メインの「英雄の生涯」。固定概念に縛られることなく、構造を新たに組み立て直したかのような演奏。定番のドイツ的なスタイルのようにフレーズや楽想の節目を明確にするのではなく、音楽を流麗に進めていく。調性が変わる際には響きの色合いがデリケートに変化していくことが聴き取れるのもマケラの非凡さがなせる業であろう。この曲にはコンマスに難しく長大なソロが設けられているが、この日弾いたのはドイツ・カンマ―フィルの第1コンマスも務めるザラ・クリスティアン。ドイツ人ではあるが、マケラの示す方向性に沿って、流れを重視した華麗なソロを聴かせた。
この曲においてもフォルティシモでも響きを混濁させない一方で、音楽全体のスケールの大きさがしっかりと表現されていた。マケラはまだ、27歳。素晴らしい才能と手腕である。終演後、オケが退場しても拍手は鳴りやまず、マケラはステージに再登場し喝采に応える盛り上がりとなった。
(宮嶋 極)
公演データ
【オスロ・フィルハーモニー管弦楽団東京公演】
10月18日(水)東京芸術劇場コンサートホール、23日(月)19:00、24日(火)19:00 サントリーホール
指揮:クラウス・マケラ
ピアノ:辻井 伸行
◆Aプログラム(23日)
ショスタコーヴィチ:祝典序曲イ長調Op.96
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番へ長調Op.102
リヒャルト・.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40
◆Bプログラム(18日、24日)
シベリウス:交響曲第2番ニ長調Op.43
シベリウス:交響曲第5番変ホ長調Op.82
※23日のアンコール
カプースチン:8つの演奏会用練習曲より プレリュード(ソリスト)
グリーグ:「小人の行進」(「叙情小曲集」より)(ソリスト)
ヨハン・ シュトラウスⅡ:「騎士パズマン」よりチャルダッシュ(オーケストラ)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。