在京オーケストラの中でも随一の発信力を誇るノット&東響による充実の名演
ジョナサン・ノットと東京交響楽団の発信力は、在京オーケストラのコンビで随一の水準と言っていいだろう。10月定期では最良の面が表れる20世紀プロが組まれた。ひねりの効いた構成が心憎い。
前半はドビュッシーの交響的組曲「ペレアスとメリザンド」。全5幕の歌劇から声楽のない15曲を選び、ノット自身がアレンジした(当日は約45分)。他の編曲版では多くがカットされた間奏曲を、ライトモチーフを重視し採り入れている。
ノットは作品への強い愛着と共感を示し、東響の持ち味を生かして、しなやかな流動感と透明なテクスチュアを引き出した。楽曲のつなぎも巧みで、緩やかな起伏を丁寧なドラマ運びで演出し、悲劇的な幕切れまで大きな流れを絶やさなかった。
後半は4人の独唱者と東響コーラス(合唱指揮=冨平恭平)を従えたヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」。民族的なエネルギーと共に、モダンな音響構造を明らかにする解像度の高い快演となった。3つある版のうち、最も複雑というポール・ウィングフィールドによるユニバーサル版(9曲版)を選ぶところが、錯綜(さくそう)したスコアの振り分けが得意なノットらしい。
冒頭の「イントルーダ」から対向配置の妙がさえ、各セクションの見通しが良い。シンメトリカルな作品構造の軸となる「クレド」では、初稿の指定にあるクラリネット3本のバンダが2階客席の上手に置かれ、ユニークな効果を発揮した。
ソリスト4人はいずれも安定度が高い。扱いにくい教会スラヴ語の典礼文を的確にこなした東響コーラスの厚みある熱演と、迫力あるオルガン(大木麻理)も華を添えた。こうした重量級プロをさらりと聴かせるあたりに、このコンビの際だった充実度を再認識した。
※取材は10月15日(日)、サントリーホール
(深瀬 満)
公演データ
【東京交響楽団第715回定期演奏会】
10月15日(日)、サントリーホール
指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:カテジナ・クネジコヴァ
メゾソプラノ:ステファニー・イラーニ
テノール:マグヌス・ヴィギリウス
バス:ヤン・マルティニーク
合唱:東響コーラス
ドビュッシー/ノット編:交響的組曲 「ペレアスとメリザンド」
ヤナーチェク:グラゴル・ミサ(ポール・ウィングフィールドによるユニバーサル版)
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。