ラトルという新たなシェフを得て、新時代への扉を開いた名門、バイエルン放送響
サイモン・ラトルが新しいパートナー、バイエルン放送交響楽団(BRSO)とともに来日し、同団事務局長ニコラス・ポントと記者懇談会に出席した。今年が創立75周年にあたるBRSOの今回のツアーは、6年ぶりの来日であるだけでなく、昨年首席指揮者に就任したラトルとの初めての日本公演となった。
両者の発言要旨は次の通り。
ラトル:「若い頃、ラファエル・クーベリックが指揮するBRSOのマーラーの交響曲やチェコ音楽の演奏が私のハートをつかみました。現在のBRSOは、「ムジカ・ヴィ―ヴァ」という長い伝統を誇る現代音楽のフェスティバルを行っていると同時に、ピリオド楽器を有し、ガット弦を張り、バロック・古典派時代の弓で演奏します。シュターツカペレ・ドレスデンのような数百年の歴史はありませんが、ティーンエージャーのような好奇心を持っているオーケストラです」。
ポント:「BRSOと日本とは親密な関係にあり、前首席指揮者のマリス・ヤンソンスさんは日本を愛していました。でもそのヤンソンスさんが2019年に亡くなり、首席指揮者がいなくなり、その上、コロナ禍が起こり、辛い時代を過ごしていました。しかし、私が楽団員に、2023年から新しい首席指揮者にラトルさんが就任すると話したときの彼らの喜びは熱狂的で、やっと将来に目が向けられるようになりました。まさに新時代の夜明けでした。今年、BRSOは創立75周年を迎え、4,5月には米国ツアーを行い、カーネギーホールで演奏し、夏にはザルツブルク、ルツェルン、ベルリン、BBCプロムスなどの音楽祭に出演し、そして、日本にやって来ました」。
ラトル&BRSOは今回のツアーでブルックナーの交響曲第9番を取り上げる。
ラトル:「私たちは何と長いブルックナーの旅をしていることでしょうか。私が最も尊敬するブルックナー指揮者はブロムシュテットさんです。97歳の彼は年々若くなり、好奇心にあふれ、新しい発見をしています。第9番は悲愴そのものといえる作品。明らかにシューベルトの後期の作品から影響を受けています。彼は第9番で初めて神に交響曲を捧げましたが、神への心は揺らいでいました。その頃、ブルックナーはひどく精神を病んでいたのです。シューマンほどひどくはないですが。最後に、神にすがろうとし、解決の可能性をほのめかしています。でも、ひどく痛み苦しんでいる人の書いた音楽なのです。交響曲第4番や第8番とは違います」。
(山田 治生)