街の小さなカレー屋さんだったココイチを、国内外で事業を展開する大人気カレーチェーンへと成長させたカレーハウスCoCo壱番屋の創業者で、現在は宗次ホールの代表を務める宗次德二さんの連載。
今回は「クラシック音楽への想い」を存分に語っていただきました。宗次さんがなぜクラシック音楽を広めることにこだわり続けるのか――。宗次さんの人生を変えた原体験や、あらためて実感した音楽の力について伺いました。

第6回:クラシック音楽で、やさしい世界を作る
クラシック音楽との奇跡のような出合い
いま思い返してみても、私の人生でクラシック音楽と出合えたことは5本の指に入る奇跡的な出来事でした。
私が人生で初めてクラシック音楽に触れたのは小学生の頃。音楽の時間に、先生が教壇で電蓄(電気蓄音機)を手で回して聴かせてくれたサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」でした。その次は中学生の時に、体育館のステージ上で、同じクラスの女の子が歌っていた「ある晴れた日に」(プッチーニ〝蝶々夫人〟より)です。何だかものすごい歌声で、あまり上手くはなかったと思うのですが……少しだけ記憶に残っています。
クラシック音楽との真の出会いは高校1年生の時、たまたまテレビで放送されたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をテープレコーダーに録音したことがきっかけです。冒頭からの美しい旋律が見事に琴線に触れ、登校前に必ず聞いていました。これが他の曲であったら絶対にクラシックを好きになっていなかったと確信できます。奇跡の出合いでした。
ココイチの経営に専念していた28年間はクラシック音楽を一切聴かなかったのに、引退が決まる直前、突然クラシック音楽への情熱がよみがえりました。それが結果的に宗次ホールの開館につながり、今ではNPO法人イエロー・エンジェルの活動を通してさまざまな音楽家と関わることになったのですから……。私流の行き当たりばったり人生バンザイ!です。今を懸命に生きることにつきます。今後も音楽家支援のみならず、これまでの人生を振り返りつつ、社会のお役に立つことに、感謝の気持ちを込めて微力ながら力を注ぎたいと思います。
世界へ羽ばたく音楽家の支援をしていきたい

NPO法人を立ち上げることを決めたのは、2002年の5月末にカレーハウスCoCo壱番屋の経営を退いた後のことです。かねてから、会社経営を通して得たお金で社会に恩返しをしたいと考えていました。
NPO法人イエロー・エンジェルでは、これまでスポーツや音楽の団体、早起き・清掃活動に取り組む組織など、さまざまなところに援助をしてきましたが、現在の主な活動の一つは、プロの音楽家を目指す才能豊かな若い人たちが音楽を学ぶための奨学金や演奏活動の機会や資金を援助することです。
たとえば公益社団法人日本演奏家連盟と共に実施している「新進演奏家国内奨学金制度(給付型)」があります。これは、声楽、ピアノ、弦楽器、木管楽器、金管楽器のプロの演奏者を目指す方に給付する返済不要の奨学金です。実技と面接審査を経て、今後の活躍が期待される優秀な方を選び、奨学生としています。
プロの演奏家として一人立ちするまでの道のりは、相当に険しいものです。プロフィールを読むだけでも、彼らがこれまでいかに努力してきたかがわかり、「すごいですねぇ」と敬意の声をかけたくなります。どれほど時間と労力をかけたとしても、将来の活躍が保証されるような甘い世界ではないことを、彼らは十分に理解しています。それでも自らの可能性を信じ、努力を続けているのです。音楽を学び続けるためには金銭面での負担が大きいですから、私たちが引き続きサポートをしていきたいと思っています。
ここまでしてクラシック音楽を広めたい理由

クラシック音楽は、人の心を豊かにし、やさしく、穏やかな気持ちにさせてくれます。それが、私がクラシック音楽を広めたいと思う最大の理由の一つです。
いま戦争や内乱で国際情勢が緊迫していますが、このような時代にこそ、クラシック音楽の〝包容力〟が必要とされていると感じます。
2025年1月13日に、愛知県芸術劇場大ホールでウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)とウクライナ国立歌劇場管弦楽団が、「ジゼル」を上演しました。その出演者の一人に、宗次個人からチェロを貸与させていただいていたウクライナ人のチェリスト、テチアナ・ラヴロワさんという方がいらっしゃいます。公演の時に彼女と感動の再会をしたのですが、「ウクライナの国民を音楽で勇気づけたい」と熱く語っていました。
ロシアとウクライナの戦争が長引く中であっても、チャイコフスキーをはじめとするロシアの作曲家の作品が演奏禁止になることはありません。何百年も伝承されてきた音楽には、社会情勢に左右されない、国境も文化も越えてしまうような包容力があるのです。
スポーツにも国際的なイベントはありますが、あくまで勝ち負けや順位を決めるものです。さまざまな国の人が合奏して、一つの音楽を創り上げるクラシック音楽には国境もなく、特別なのだと思います。
会場で演奏家の魅力的なキャラクターに触れてほしい

今日(1月17日)のコンサートに出演するTrio Japanの3人(ヴァイオリン:石田泰尚チェロ:西谷牧人、ピアノ:佐藤卓史)はかなりの人気で、チケットは即完売しました。実力はもちろん、強面で斬新な衣裳がトレードマークの石田さんは、実は拍子抜けするほど優しくてシャイな方です。以前、曲を弾き終えると石田さんが2、3秒で舞台袖にはけてしまい、あとの2人が困っているなんてこともありました……。今日はどうなることやら、楽しみです。
プロで活躍している方は、実力だけでなく、魅力的なキャラクターをお持ちの方が多いと感じます。いずれにせよ、多くの人に認められるには、どの世界も同じですが、技術とともに人間性を磨くことが大切だと思いますね。
【公演ミニリポート】
宗次ホールで至福の室内楽体験
この日のプログラムはモーツァルトのピアノ三重奏曲第6番から始まり、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第2番、後半はスメタナの数少ない室内楽曲の中からピアノ三重奏曲Op.15という聴きごたえ十分のプログラムでした。
宗次ホールのコンサートでは、必ず演奏者による曲解説やトークの時間が設けられることになっており、この日も3人のトークがありました。普段着の素朴なやり取りに、客席からたびたび笑いが起こり、終始和やかなムード。

アンコールでは、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番Op.49より第2楽章が演奏され、拍手喝采のうちに終演。充実の演奏と、メンバーの声を聴くことができた来場者の足取りは軽く、ご満悦の様子で会場を後にしていました。
ホールの響きの良さと310席というキャパシティが室内楽に最適。3人による親密な音楽の対話を生き生きと響かせてくれました。演奏者との距離を近くに感じられることも、宗次ホールの大きな魅力の一つです。名古屋へお越しの際は、ぜひホールに立ち寄ってみてください!私を含めスタッフ一同、感謝の笑顔と黄色の花でお迎えを致します。
~おいしいまかないでやる気アップ!~
今日の宗次ホールスタッフ限定「宗次食堂」
今日の宗次ホールスタッフ限定のまかないは、飛騨牛の切り落としを使用した、ビーフカレーゆで卵トッピングです。
ボリュームたっぷりで、疲れも吹き飛ぶ美味しさです!

(取材・文 野崎裕美)
宗次ホール
住所:愛知県名古屋市中区栄4丁目5-14
公式webサイト:https://munetsuguhall.com
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