
モーツァルトが19歳で書いた《羊飼いの王様》が、11月8日(土)、9日(日)に藤沢市民会館で上演される。神奈川県民ホールpresents、藤沢市民オペラ連携事業だ。園田隆一郎の指揮で、小堀勇介、砂川涼子、森麻季、中山美紀、西山詩苑という理想的なキャストが出演する。“羊飼いの王様”である題名役のアミンタを歌うのは日本を代表するソプラノ、砂川涼子。アミンタのアリア「彼女を愛そう、いつまでも」はよく知られているが、このオペラには他にも聴きごたえある曲が多い。幅広い活躍を続けながら、初心を忘れたくないとモーツァルトを大切にする砂川に、この作品の魅力を聞いた。
——来たる11月8日と9日に上演される、モーツァルト《羊飼いの王様》(演奏会形式)で、タイトルロールのアミンタを歌われます。砂川さんは今年3月の浜離宮朝日ホールのリサイタルで、同じモーツァルトの《フィガロの結婚》からケルビーノのアリアを歌われたそうですね。素晴らしい歌唱に加えて、ズボン役らしい服装で舞台に登場されたのも大好評だったと伺いました。
砂川 ありがとうございます。リサイタルでは歌曲からオペラ・アリアまで色々と歌ったのですが、お客様からは「ケルビーノが良かった」という反響をたくさん頂きました。「次は何ですか?(R・シュトラウス《ばらの騎士》の)オクタヴィアンですか?」とか(笑)。「さすがにそれは歌えません」とお返事しましたが。
——今回の《羊飼いの王様》アミンタ役は、やはり女性が歌う男性の役ですが、こちらはソプラノの声域で書かれています。そしてアミンタの恋人役エリーザもソプラノの森麻季さんが出演されます。お二人が恋人同士を演じるのは魅力ですね。
砂川 私もきっと「目の前に麻季さんが!」みたいにドキドキしてしまうのではと思います。共演がとても楽しみです。
——この《羊飼いの王様》というオペラはどのような作品で、その魅力はどこにあるとお考えですか?
砂川 《羊飼いの王様》は悪い人が出てこない、ハッピーエンドで終わる作品です。最初は素朴な羊飼いだったアミンタが実は王位継承者だったと分かり、彼が愛するエリーザとの恋の行方が危ぶまれた時に、アミンタは「僕は地位よりも彼女との幸せを選ぶ」と宣言します。アミンタの気持ちがぶれないところ、王位と愛する人のどちらかを選ばねばならない場面で、彼女との未来を選ぶという美しい清い心、ピュアでまっすぐなところがとても素敵なんです。音楽にもその美しさが表れていて、それが聴きどころではないかと思います。
——このオペラはモーツァルトが19歳の時に書いたものだそうです。後の彼のオペラと比べると違いはありますか?
砂川 そうですね、モーツァルトが書いたメロディーは、細かい動きが思ったのと違う方向に向かうような難しい部分があります。天才がパッと思いついたのかな、と思うような(笑)。そこにまた面白い発見があるという感じです。私がモーツァルトのオペラで歌える《魔笛》パミーナや、今勉強をしたいなと思っている《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・エルヴィーラなどですと、ある程度は枠に収まっている動きという気がしますが、アミンタはなかなか一筋縄ではいかない所があります。
——このオペラの中でよく知られているアミンタのアリア「彼女を愛そう、いつまでも」はゆったりとした曲でメロディも覚えやすいですが、アミンタにはそれ以外にも、装飾音などの細かい動きがあるアリアがあるのでしょうか?
砂川 そうなんです。普段、ロマン派の作品などを歌うことが多い身としては新鮮ですが、必死になって勉強しています。
——アレッサンドロ大王という登場人物もいますが、《羊飼いの王様》という題名はアミンタを指しています。男性の役、しかも王様になる人物を演じることについてはいかがですか?
砂川 これまで歌ってきた役というのは、一歩下がって仕える女性とか、体が弱い女性の役などが多かったので、そういうイメージを持ってくださる方もいると思いますし、自分の声質はそういう役にも合っていると思うのですが、私自身の性格としては割と潔いというか、決めたことは貫こうという気持ちがあると思っていて。だから男性役にもすんなり共感できる気がします。女性の役でも、《トゥーランドット》のリューや《夕鶴》のつうのような気持ちの強い役は、やはり共感して歌いやすいのです。

—— 音楽的な聴きどころは、ここが一番、という場所はありますか?
砂川 森さんが歌うエリーザとのデュエットなどは、女声二人で歌うハーモニーを聴いていただけていいと思います。女声同士、しかもソプラノ同士で歌う二重唱はそんなに多くありませんし。全体の音楽は、ロマン派の作品とは違い、アリアやレチタティーヴォなど、部分ごとに独立しているので、物語の流れを重視というよりは、音楽の美しさを純粋に聴いていただける作品だと思います。今回は演奏会形式ということもあり特に、シンプルでありながらこの上なく美しいモーツァルトの音楽を集中して聴くことができる貴重な機会ではないかと思っています。
——ピアノ曲などで、モーツァルトはシンプルであるが故に、演奏者にはより難しいと言われることがあります。これはオペラにも当てはまりますか?
砂川 確かに、例えば旋律がドラマティックなプッチーニはそのままメロディを素敵に歌えばもうグッときますが、モーツァルトはあまり感情を込めすぎるとスタイルが崩れてしまいます。フレーズの作り方、レガートの歌い方、響きの工夫、そして形式的な美しさも表現しながら、言葉のニュアンスは音色でしっかり広げる必要があります。シンプルな声を出すのは難しく、それには音程やビブラートの加減も関わってきますし、バランスも誤魔化せません。そして、テクニックの部分だけでも聴いている方は物足りなくなってしまいます。言っていて自分は大丈夫かなとドキドキしてきますけれども(笑)。
—— 聴く方の私たちも、その美しさを感じ取れないといけませんね。
砂川 オーソドックスな部分をちゃんと持っていることは、後の時代の作品を歌う時にも絶対役に立つと思うんです。私も、だんだんドラマティックな役に行く傾向がある中で、こうやってモーツァルト作品のお話が来たということは、神様や、園田先生からの「砂川さん、こっちでしょ!」というメッセージなのかもしれません。モーツァルトも歌える状態でいたいですから。
——長年、トップで素晴らしい歌を歌われていますが、何かをよりどころにして歌い続けてきた、ということはありますか?
砂川 ひたすら駆け抜けてきたと言いますか…。自分に足りないことを勉強して身につけたい、上手に歌えるようになりたい、という思いと、歌が大好きだという思いだけでやってきたようなところがあります。理想としているものにはなかなか辿り着けないのですが。歌が大好きなので、歌っていない自分を考えることの方が悲しいんです。この音が出ない、こう歌いたいのにできない、などはありますけれど。幸せにやってきたのは間違いないですし、それはやはり、いつも歌が支えてくれたような気がします。
——指揮の園田隆一郎マエストロとはリサイタルなどでも共演を重ねてきています。
砂川 初めての共演はそれぞれがイタリアから帰ってきた時期の、藤原歌劇団の《ラ・ボエーム》でした。園田マエストロにとっても日本での初めての本格的なオペラ指揮だったと思います。その後、いくつかの現場でご一緒し、私がCDを録音する時にご相談して、ピアノを引き受けていただきました。そこからリサイタルなどでもご一緒するようになったのです。マエストロは、声のこともイタリア語も本当に分かっていらっしゃって、私だけでなく多分、皆さんが絶大な信頼を寄せていると思います。
——今回も園田マエストロの選択眼による、理想的なキャストの上演になりそうですね。
砂川 皆さん本当に素晴らしい活躍をしている方ばかりです。私もその中にひょっこり入れていただいて。精一杯務めたいと思います。
(井内美香)

砂川 涼子 Ryoko SUNAKAWA
可憐な舞台姿と聴くものの心を震わせる歌声で高い人気を誇るソプラノ歌手。日伊声楽コンコルソ優勝、日本音楽コンクール第1位等、数々の受賞歴を誇る。武蔵野音楽大学卒業、同大学大学院修了。その後イタリアでも研鑽を積む。新国立劇場「オルフェオとエウリディーチェ」エウリディーチェで本格的オペラデビュー、以来、数々の公演に出演を続け、その実力に裏打ちされた歌唱は常に高い評価を得ている。また、活動の場はオペラにとどまらず、オーケストラ公演、リサイタルでも全国各地から招かれている。テレビ、ラジオへの出演も数多く、NHKニューイヤーオペラコンサートにも出演を重ねる。沖縄県宮古島出身。藤原歌劇団団員。武蔵野音楽大学講師。
公演概要
公演名
神奈川県民ホールpresents藤沢市民オペラ 連携事業 オペラシリーズ
モーツァルト オペラ《羊飼いの王様》全2幕(演奏会形式/イタリア語上演・日本語字幕付)
日時
11月8日 (土) ・11月9日(日)各日14:00開演(13:15開場)
各日終演後アフタートークあり
会場
藤沢市民会館 大ホール(藤沢市鵠沼東8-1)
JR・小田急「藤沢」駅より徒歩10分、江ノ電「石上」駅より徒歩7分
江ノ電バス「県合同庁舎前」より徒歩1分
出演
園田隆一郎(指揮)
小堀勇介(アレッサンドロ大王)砂川涼子(アミンタ)森麻季(エリーザ)
中山美紀(タミーリ)西山詩苑(アジェーノレ)
神奈川フィルハーモニー管弦楽団(管弦楽)矢野雄太(チェンバロ)
料金
全席指定(税込)
S席:6,500円 A席:5,500円 B席:4,500円 C席:3,500円
U25(25歳以下)S席・A席:2,000円 U25(25歳以下)B席・C席:500円
※未就学児入場不可
※U25を除き、障がい者割引(2割引)が適用されます。
(お付添いのお客様1名分も割引が適用されます。)
「チケットかながわ」・「(公財)藤沢市みらい創造財団芸術文化事業課」のみで取扱い。
※公演中止の場合を除き、チケットの変更・払い戻しはいたしません。
※出演者は予告なく変更する場合がございます。予めご了承ください。
※アクセシビリティ(鑑賞サポート)あり、詳しくはHPをご覧ください。
一般発売
7月1日(火)
お取扱い
●チケットかながわ TEL.0570-015-415(10:00~18:00)
https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/opera_fujisawa
[窓口]KAAT神奈川芸術劇場(10:00~18:00)
神奈川県立音楽堂(13:00~17:00/月曜休)
●チケットぴあ[Pコード:300-601]
●イープラス https://eplus.jp/
●ローソンチケット[Lコード:33764]
●(公財)藤沢市みらい創造財団芸術文化事業課
[WEB]藤沢市みらい創造財団オンラインチケットサービス https://www.cnplayguide.com/f-mirai/
[電話]CNプレイガイド TEL.0570-08-9999(10:00~18:00)※座席指定不可
[窓口](公財)藤沢市みらい創造財団文化事業課(藤沢市民会館内)9:00~17:00
(月曜日及び祝日の翌日は休館)※現金のみ、電話予約不可
[Famiポート]ファミリーマートに設置のマルチコピー機 ※座席指定不可
【 主 催 】神奈川県民ホール(指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)
【 共 催 】公益財団法人藤沢市みらい創造財団
関連企画 第2弾 公演概要
公 演 名
モーツァルト オペラ《羊飼いの王様》関連企画 第2弾
砂川涼子&園田隆一郎 デュオ・コンサート ~モーツァルトを旅する午後~
日時
10月15日 (水) 14:00開演(13:30開場)
会場
ヨコスカ・ベイサイド・ポケット(横須賀市本町3-27)
https://www.yokosuka-arts.or.jp/
京急「汐入」駅より徒歩1分、JR「横須賀」駅より徒歩8分
出演
砂川涼子(ソプラノ)園田隆一郎(ピアノ・お話)奥田瑛生*(ヴァイオリン)
曲目
モーツァルト:「すみれ」「クローエに」
:オペラ《フィガロの結婚》より「恋とはどんなものかご存じのあなた方」
:オペラ《羊飼いの王様》より
「穏やかな空気と晴れやかな日々」*「彼女を愛そう、いつまでも」* ほか
料金
全席指定(税込)
S席:3,000円 A席:2,500円(A席はチケットかながわ、横須賀芸術劇場のみ取扱い)
U24(24歳以下):各席種の半額
※アクセシビリティ(鑑賞サポート)あり、詳しくはHPをご覧ください。
一般発売
7月1日(火)
お取扱い
●チケットかながわ TEL.0570-015-415(10:00~18:00)
https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/yokosuka2025
[窓口]KAAT神奈川芸術劇場(10:00~18:00)
神奈川県立音楽堂(13:00~17:00/月曜休)
●チケットぴあ[Pコード:299-186]
●イープラス https://eplus.jp/
●横須賀芸術劇場 https://www.yokosuka-arts.or.jp
TEL. 046-823-9999(10:00~17:00)
(劇場プレミアム倶楽部専用ダイヤル:046-823-7999)
[窓口]芸術劇場1階/サービスカウンター内
(10:00~19:00/毎月第2水曜日休館)
【 主 催 】神奈川県民ホール(指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)
【 共 催 】公益財団法人横須賀芸術文化財団
【 お問合せ 】神奈川県民ホール事業課 TEL.045-662-5901(代表)平日10:00~17:00