大阪フィルハーモニー交響楽団

初夏の大阪フィル定期演奏会をめぐって

初夏の大阪フィルの定期演奏会には魅力あふれるプログラムと、素敵な共演者が揃う。4月に大阪・関西万博が開幕し大阪の街は大いに賑わっている。爽やかなこの季節に大阪を訪ねていただき、ぜひ中之島のフェスティバルホールで行われる大阪フィルの定期演奏会にも足を運んでいただきたい。
5月6月の定期のプログラミングについて制作の過程を振り返ってみる。

大阪フィル6月の定期を指揮するロシアの巨匠フェドセーエフ (C) Roman Goncharov
大阪フィル6月の定期を指揮するロシアの巨匠フェドセーエフ (C) Roman Goncharov

5月16、17日の第588回定期演奏会では指揮者にゲオルク・フリッチュ氏を迎える。大阪フィルとは初めての共演だ。2023年の神奈川フィルとの共演でのブラームスの2番の交響曲が名演だったという風の便りを聞いていて、今回の共演を楽しみにしてきた。
フリッチュ氏のドイツの歌劇場の要職を歴任してきたというキャリアを見て、すぐに頭に浮かんだのがリヒャルト・シュトラウスだった。シュトラウスのオペラにまつわる作品をと考えた時に、影のない女の交響的幻想曲が浮かんだのだ。すぐにフリッチュ氏に伝えるとOKだと返事が来た。この作品は演奏しやすいように(取り上げやすいように)シュトラウス自身がオペラの原曲の管弦楽編成を削って書いている。しかし大阪でシュトラウスのオペラの壮大で緻密なスコアが再現できる機会はそう多くはない。そこでペーター・ルジツカによる原曲の編成を踏襲した版を提案したところ、こちらもすぐに了承が得られた。4管編成によるゴージャスな音楽、オペラの実演を聴いたことがある人も、初めてこの作品に触れる人も大いに楽しんでいただけることだろう。

5月定期はオペラの名匠、フリッチが登場(c)thorstenwulff
5月定期はオペラの名匠、フリッチが登場(c)thorstenwulff

今回のソリストはピアニストのミシェル・ダルベルト氏を迎える。大阪フィルとは2022年11月の第563回定期演奏会でモーツァルトの21番を共演して以来だ。今回はシューマンの協奏曲を取り上げる。氏のピアノに接したことがある人ならば、その音色の美しさと、流麗なロマンティシズムに惹かれたはずだ。シューマンの協奏曲は打ってつけのレパートリーで期待が高まる。上記の二曲がプログラムの核になって残りの作品がまとまっていった。ウェーバーの歌劇「オイリアンテ」序曲は短い作品ながら冒頭の生命力溢れる動機に始まり、中間部の美しいヴァイオリンのソリなど聴きどころが満載だ。名曲「ドン・ファン」についてはもはや語る必要はないだろう。前回演奏したのが2021年10月の第552回定期、指揮は大阪フィルと縁の深い名匠秋山和慶氏だった。フリッチュ氏がこの名作をどのようにアプローチするのか、とても楽しみだ。

5月定期のソリスト、ミシェル・ダルベルト(c)Caroline Doutre
5月定期のソリスト、ミシェル・ダルベルト(c)Caroline Doutre

6月13、14日の第589回定期演奏会では1932年生まれで今年93歳になる巨匠ウラディーミル・フェドセーエフ氏を迎える。フェドセーエフ氏との初共演は1992年9月のザ・シンフォニーホール開館10周年記念コンサートまで遡る。その後、1996年(第297回)、1999年(第331回)、2013年(第468回)、2017年(第508回)と4回の定期演奏会で共演を重ねてきた。いずれのプログラムも誰もが期待を寄せるロシア人作曲家と氏が敬愛するロシア系以外の作品とのカップリングが絶妙だった。氏の豊かな音楽性に魅了されて大阪フィルはフェドセーエフ氏との次の共演を心待ちにして来た。今回の演目は、グラズノフのバレエ音楽「四季」全曲とチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。巨匠によるロシア音楽に酔いしれるプログラムとなった。フェドセーエフ氏のチャイコフスキーはまさに鉄板。チャイコフスキー交響楽団(モスクワ放送響)との来日公演でその名演を体験した方もたくさんおられることだろう。でも交響曲第1番の実演に触れたことがある方はそう多くはないのでは。第1楽章が始まってすぐにクラリネットとチェロで歌われる胸が締め付けられるような美しい旋律、第2楽章の儚く印象的な旋律がオーボエで奏でられ、そのメロディが歌い継がれていく。第4楽章の民謡的な主題がどんどん展開してからの圧倒的なクライマックス・・・巨匠が振ったらどんな世界が開けるのだろうか。想像するだけで心のテンションが上がる。

フェスティバルホールにおける大阪フィル (c)飯島隆
フェスティバルホールにおける大阪フィル (c)飯島隆

メインの「冬の日の幻想」と対になる前半のプログラムはどうだろう。フェドセーエフ氏の数多くの録音や実演に触れてきた人ならよく知っていることだが、氏は小品を演奏するのが物凄く上手いのだ。チャイコフスキーやハチャトゥリアンのバレエ音楽やスヴィリドフの吹雪などの名演を思い出していただけたら話が早い。グラズノフの「四季」が候補に上がった。国内のコンサートでは「秋」は取り上げられることが度々あったが、最近めっきり減った。フェドセーエフ氏はグラズノフの交響曲の見事な全集を残している現代最高のグラズノフの解釈者。巨匠がこの素敵なバレエ音楽を振ったら凄い名演になるに違いない!
初夏の大阪フィルの定期演奏会にはタイプの異なる素敵な指揮者を迎えることが出来た。二人のタクトの下で大阪フィルのサウンドがどのような化学反応を起こすのか、ぜひ体験していただきたい。

 

大阪フィルハーモニー交響楽団 演奏事業部長 山口 明洋

公演データ

大阪フィルハーモニー交響楽団
第588回定期演奏会

5月16日(金)19:00、17日(土)15:00 フェスティバルホール

指揮:ゲオルク・フリッチュ
ピアノ:ミシェル・ダルベルト

ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲
シューマン:ピアノ協奏曲イ短調Op.54
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」Op.20
リヒャルト・シュトラウス:交響的幻想曲「影のない女」Op.65

第589回定期演奏会

6月13日(金)19:00、14日(土)15:00 フェスティバルホール

指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ

グラズノフ:バレエ音楽「四季」Op.67
チャイコフスキー:交響曲第1番ト短調Op.13「冬の日の幻想」

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