大編成オーケストラの醍醐味(だいごみ)を満喫させる新譜が、相次いで登場した。この後、名盤として高い評価を得そうなディスクもある。
<BEST2>
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」(1874年 第1稿)
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
<BEST3>
マーラー 交響曲第2番ハ短調「復活」
小泉和裕指揮/九州交響楽団/安井陽子(ソプラノ)/福原寿美枝(アルト)/九響合唱団、他
21世紀を背負う指揮者のひとりとして、ダニエル・ハーディング(1975年生まれ)は早くから注目を浴びてきた。日本とも縁が深い。そんな彼が、バイエルン放送交響楽団に客演した際のライブ録音で、ホルストの組曲「惑星」を出した。収録は2022年2月。華麗なオーケストラ・ピースとして人気の高い「惑星」だが、英国人指揮者にとっては母国が生んだ傑作にも当たる。歴代、さまざまな同国人が強い共感をもって名演を残してきた。
ハーディングの解釈は、遅めのテンポで作品の内実をじっくり掘り下げ、華々しい表面の内奥に潜む哲学的な深みまで引き出したのが大きな特徴。大音響の狂宴がはらむ暴力的な脅威から、瞑想(めいそう)的な静けさに漂う沈潜した叙情まで、表現の深まりに驚かされる。ここにきて、音楽家としてハーディングが一皮むけて、進境著しいことを思わせる。洗練された機能に緻密な音色をもつ楽団と、本拠地ヘラクレスザールの豊麗な響きを存分にとらえた録音もすばらしい。
フランソワ=グザヴィエ・ロトは、ふたつの手兵を使い分けて、活発な録音活動を展開している。このブルックナー「ロマンティック」は1874年の第1稿を取り上げた点がミソ。野趣の強いオリジナル版を巧みに料理して、この稿ならではの先鋭で特異なオーケストレーションの面白さを強調する。ケルン・ギュルツェニヒ管との来日公演を聴けなかったファンも、この1枚で留飲を下げることうけあい。
円熟を深める小泉和裕が、音楽監督を務める九州交響楽団と、マーラーの交響曲ライブ録音をこつこつと続けている。第3弾として登場したのが、2022年10月に収録した第2番「復活」だ。よどみなく流れる中にも、自然体のヒューマンな滋味を醸し出し、作品にふさわしいスケール豊かなクライマックスを形づくる。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。