この春に日本を訪れ、鮮烈な演奏で魅了していった名演奏家たちが、新譜ディスクでも秀作を競っている。
<BEST1>
20世紀傑作選⑤ バルトーク:管弦楽のための協奏曲&中国の不思議な役人
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)/NHK交響楽団
<BEST2>
マスカーニ 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」全曲
リッカルド・ムーティ(指揮)/シカゴ交響楽団/アニタ・ラチヴェリシュヴィリ(サントゥッツァ)/ピエロ・プレッティ(トゥリッドゥ)ほか
<BEST3>
ヤナーチェク、ブラームス、バルトーク: ヴァイオリン・ソナタ集
パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)/ファジル・サイ(ピアノ)
ヤナーチェク:ヴァイオリン・ソナタ/ブラームス:同第3番/バルトーク:同第1番
NHK交響楽団で去年まで首席指揮者を務めていたパーヴォ・ヤルヴィは、任期の総仕上げに入ってから、一段と気合の入った名演を連発していた。2021年9月に東京芸術劇場で行われたバルトークの2作品を並べた一夜は、私も会場で聴いて感銘を受け、当サイトで年間ベスト1に挙げた記憶がある。こうしてディスクの形で聴き直してみても、改めてその凄さを再認識させられる。
パーヴォの細部まで追い込んだ精緻な作りと、たたみ込むようなスマートな機敏さが、N響の水も漏らさぬ緊密な合奏力や現代的な機能性とマッチして、コンビ最良の面が発揮された。さえざえとした感触やシャープなリズム、クールな表情と、胸のすくような快演だ。土俗的なにおいや野性味より、むしろ、洗練された鮮やかなモダニズムの切れ味が、日本の団体が成しとげた最高水準の成果を示している。各セクションの分離が良い高解像度の録音が、演奏の特質をみごとに浮かび上がらせる。
東京・春・音楽祭に姿を現したリッカルド・ムーティは、ことしもイタリア・オペラの真髄で聴衆をうならせた。お題のヴェルディ「仮面舞踏会」では、指揮台でビュッとタクトを振り下ろすと、筋肉質のカンタービレが勢いよく飛び出して、豊麗な音色と響きで魅了した。手兵シカゴ交響楽団とのライブ盤となるマスカーニの傑作でもマジックは同様で、重量級の歌手陣を擁して、ドラマチックな感興を盛り上げる。
ヴァイオリンのコパチンスカヤが独奏から歌芝居の役者まで、大暴れした東京都響の3月定期演奏会は、リゲティ作品を相手に、すっかり彼女が主役となった格好だった。ヤナーチェクやバルトークなど同系統の作品を集めたCDも鮮烈な仕上がり。ピアノの鬼才、ファジル・サイと火花を散らして自在に作品へ立ち向かい、新鮮で鋭敏な音世界を作り上げる。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。