新旧のスターが活躍するオペラの名品が相次いでリリースされた。豪華な顔ぶれの競演に、思わず引き込まれる。
<BEST1>
プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」全曲
ソンドラ・ラドヴァノフスキ(ソプラノ)/ヨナス・カウフマン(テナー)/アントニオ・パッパーノ(指揮)/サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団ほか
<BEST2>
ワーグナー 楽劇「ラインの黄金」全曲
キルステン・フラグスタート(ソプラノ)/ジョージ・ロンドン(バス・バリトン)/ゲオルグ・ショルティ指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ほか
<BEST3>
リヒャルト・シュトラウス 4つの最後の歌、歌劇「カプリッチョ」最終場面
レイチェル・ウィリス=ソレンセン(ソプラノ)/アンドリス・ネルソンス(指揮)/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団ほか
近年は巨匠の風格を醸すようになった人気のイタリア人指揮者、アントニオ・パッパーノだが、意外にも「トゥーランドット」は、この新録が初挑戦だったという。「意図的に避けていた」と解説文で語っているが、今回のレコーディングで「改心した」と明かすとおり、演奏・録音とも実に見事。めくるめく色彩感にあふれ、オペラティックな感興の深い発露に圧倒される。イタリアのオケ、合唱団ならではの盛り上がりも聴きものだ。
このエキゾティックな名作の主役歌手には、並み外れたパワーが要求される。題名役のソンドラ・ラドヴァノフスキ、王子カラフ役のヨナス・カウフマンとも、うってつけで、高水準のキャストがそろった。プッチーニの没後、作品のエンディングを遺族の依頼で完成させたフランコ・アルファーノによる補作第1稿を採用したのも貴重。聴き慣れたラストとかなり趣が異なり、主役2人の心の移ろいがあぶり出される。
名指揮者ゲオルグ・ショルティがウィーン・フィルと残したワーグナー「ニーベルングの指環」全曲録音は、歴史的名演として評価が高い。ショルティ生誕110周年を記念して昨年、オリジナル音源から再制作が行われ、音質のリフレッシュが図られた。全集の第1弾となった「ラインの黄金」は1958年の収録だが、いまだに鮮度を保つスペクタクルな音響効果と、往年の名歌手たちの迫力に圧倒される。
レイチェル・ウィリス=ソレンセンは米国出身のソプラノ。近年、欧米の主要歌劇場で活躍が目立ち、役どころも増えてきた。中低域の支えがしっかりした陰影ある声質が持ち味で、ドイツ物と相性が良い。リヒャルト・シュトラウスの名品を二つ収めた新作では、アンドリス・ネルソンス指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管という理想的なバックを得て、丁寧な歌い口で魅了する。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。