このところ、強い印象を残すオーケストラ演奏の新譜が相次いだ。一時代を築いた巨匠のライブから、ピリオド楽器で曲の真価を洗い直した新録まで、深い感銘と新鮮な発見を与えてくれる。
<BEST1>
ライヴ・イン・グラーツ 1999 ~生涯唯一のワーグナー~
ニコラウス・アーノンクール(指揮)/ヴィオレッタ・ウルマーナ(メゾ・ソプラノ)他/ヨーロッパ室内管弦楽団
メンデルスゾーン:「美しいメルジーネの物語」序曲/ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より/アーノンクールによる解説、他
<BEST2>
秋山和慶 シベリウス交響曲全集
秋山和慶(指揮)/中部フィルハーモニー交響楽団、他
シベリウス:交響曲第1~7番、ヴァイオリン協奏曲、交響詩「フィンランディア」、アンダンテ・フェスティーヴォ、他
<BEST3>
マーラー「大地の歌」
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)/マリー=ニコル・ルミュー(コントラルト)/アンドリュー・ステイプルズ(テノール)/レ・シエクル
ピリオド楽器による古楽演奏を切り開いたニコラウス・アーノンクール(1929~2016)は、ロマン派以降のレパートリーにも精力的に取り組んだ。没後10年を記念し、彼が生涯で唯一、ワーグナーを指揮した際のライブ音源がCD化された。オーストリアのシュティリアルテ音楽祭で1999年6月にヨーロッパ室内管を振った記録だ。
演奏会のタイトルは「イゾルデの愛の死」。この作品や「タンホイザー」と、関連性のあるメンデルスゾーン、シューマンの作品まで収め、趣向を凝らした一晩の構成が楽しめる。遺品を所蔵する大学の協力で、使用スコアをオンラインで見ることができる仕掛けも今風で、貴重だ。
徹底的な分析・解釈を克明に音にし、旧来の手あかを洗い落とした演奏には、初めて耳にする響きや音色、構造が次々と現れ、目から鱗が落ちる。今さらながら鬼才の鋭敏な感覚や飽くなき探求心にうならされる。ワーナーに残した同管との演奏を集めた28枚組みボックスも出た。
愛知県小牧市を本拠地とする中部フィルハーモニー交響楽団は昨年、創立25周年を迎えた。秋山和慶が長年指導し、育成に力を注いできた。その早すぎた晩年の2023~24年に同フィルと全曲演奏会を行ったシベリウスの交響曲などが、楽団の自主制作盤として5枚組みでライブCD化された。てらいの無い解釈で作品の特質を誠実に伝え、最晩年の秋山の芸風をよく示す。同フィルのサイトから通販で注文できる。
ピリオド楽器による演奏をロマン派後期まで広げ、新たな驚きをもたらし続けるロトとレ・シエクルのコンビが、マーラーの交響曲録音3作目となる「大地の歌」を出した。ややくすんだ質朴な響きが、初演当時の色合いを醸す陰影に富んだハーモニーを紡ぎ出す。その効果を最大化するロトの精力的な指揮、フレッシュな歌手陣も聴きものだ。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










