国内最大の音楽祭として人気の東京・春・音楽祭(東京春祭)が今年も上野を舞台に開催される。3月18日にリッカルド・ムーティ指揮、東京春祭オーケストラの演奏会で開幕。4月19日までの間、東京春祭ワーグナー・シリーズとして「ローエングリン」の演奏会形式上演やオーケストラ・コンサート、内外の実力派音楽家による室内楽やリサイタルなど多彩なプログラムが予定されている。そこで、今年の同音楽祭の主な聴きどころを紹介する。(宮嶋 極)
コロナ禍の2021年、国内の音楽シーンにおいて大きなインパクトを与えた昨年の東京春祭におけるムーティ指揮によるヴェルディの「マクベス」演奏会形式上演。クラシックナビのレギュラー執筆者が選ぶ2021年開催公演のベスト10でも2位以下を大きく引き離す高得点で1位に選ばれた。(先月のピカイチ 来月のイチオシ:クラシックナビ レギュラー執筆者が選ぶ2021年開催公演ベスト10 | 毎日新聞 (mainichi.jp) また、音楽専門誌による同様の企画でも1位に輝いている。
そんなムーティが今年は開幕コンサート(18日・東京文化会館大ホール、19日・すみだトリフォニーホール)を指揮する。プログラムはモーツァルトの交響曲第39番、シューベルトの交響曲第8番「未完成」ほか。昨年秋のウィーン・フィルの日本公演でもムーティはシューベルトの交響曲第7番ハ長調、いわゆる「グレート交響曲」で名演を聴かせたことは記憶に新しいが、今度は若手中心の東京春祭オーケストラからどのような「未完成」の調べを導き出すのか、楽しみである。
東京春祭といえば忘れてはいけない名物企画が「ワーグナー・シリーズ」であろう。ワーグナーを得意とする国際的指揮者や内外の実力歌手を集め毎年1作ずつワーグナーの舞台作品を演奏会形式で上演する。今年の演目は「ローエングリン」(3月30日、4月2日・東京文化会館大ホール)。指揮はワーグナー作品上演の総本山であるバイロイト音楽祭の常連となったマレク・ヤノフスキ、演奏はNHK交響楽団。ヤノフスキは東京春祭ワーグナー・シリーズで2014年から「ニーベルングの指環(リング)」を1年1作ずつ指揮したことに加えて、バイロイトにおいてもキリル・ペトレンコの後を受けてフランク・カストルフ演出の「リング」ツィクルスを16、17年に指揮し好評価を得ている。従来のワーグナー演奏とはひと味違ったヤノフスキの音楽作りは一切の無駄な装飾を排した質実剛健なもの。ロマンティックな要素が満載の「ローエングリン」に対してヤノフスキがどのようなアプローチで臨むのか興味深い。題名役はミュンヘン出身で現在はドイツを中心に活躍するテノール、ヴィンセント・ヴォルフシュタイナー、エルザは南アフリカ出身の注目株、ヨハンニ・フォン・オオストラムが歌う。
オペラではプッチーニ・シリーズの第3弾として「トゥーランドット」が演奏会形式で上演される(4月15、17日・東京文化会館大ホール)。指揮はミラノ・スカラ座管弦楽団のオーボエ奏者から指揮者に転じ、現在はスカラ座やウィーン国立歌劇場、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場など欧米の名門劇場でイタリア・オペラを主なレパートリーとして活躍しているピエール・ジョルジョ・モランディ。演奏は読売日本交響楽団。リカルダ・メルベート(トゥーランドット)、ステファノ・ラ・コッラ(カラフ)らが出演予定。
今年で9回目となる「合唱の芸術シリーズ」はマーラーの交響曲第3番(4月10日・東京文化会館大ホール)。指揮は英国出身でオペラ指揮者としてキャリアを積み重ねているアレクサンダー・ソディ。オケはマーラー演奏に定評がある東京都交響楽団。コロナ禍以降、マーラーなどの大規模作品が演奏される機会が減っているだけに楽しみである。
最終日の4月19日には人気バス・バリトンのブリン・ターフェルの演奏会(東京文化会館大ホール)が開催される。沼尻竜典指揮、東京交響楽団をバックにワーグナーやヴェルディらのオペラ、楽劇から名曲の数々が披露される。ターフェルは16日、東京文化会館小ホールでアナベル・スウェイト(ピアノ)とともにベートーヴェンやヴォーン・ウィリアムズ、シューベルトらの作品を取り上げるリサイタルも行う。
さらに東京文化会館小ホールではセルゲイ・ババヤン(ピアノ、3月29日)、フランソワ・ルルー(オーボエ、4月6日・8日)、アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ、4月7日)、アンドレアス・シュタイアー(ピアノ、4月12日)、デジュー・ラーンキ(ピアノ、4月13日)らの注目されるリサイタルが数多く開催される。
公演データは音楽祭の公式ホームページをご参照ください。
プログラム情報 | 東京・春・音楽祭 (https://www.tokyo-harusai.com/)
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。