国内最大級の音楽フェスティバル、東京・春・音楽祭の芦田尚子事務局長に聞く、今年の同音楽祭の聴きどころ、観どころ、最終回は室内楽やリサイタル公演について紹介していただいた。
(取材・構成 宮嶋 極)
——最後に室内楽やリサイタルなどについてご紹介ください。
芦田 大ホールと小ホールを使って、アンサンブル・アンテルコンタンポランの公演を開催します。今年は創始者のピエール・ブーレーズの生誕100年にあたり、3月26日がお誕生日です。彼らは3月26日、28日の両日、本拠地のパリでブーレーズを偲(しの)ぶコンサートを開催します。28日のコンサートでミヒャエル・ジャレルという作曲家の新作を演奏しますが、その曲を携えて日本に来て東京文化会館大ホール(4月9日)で日本初演を行います。この作品のために規模は小さいのですが、合唱団も引き連れて来ることになっています。また、小ホール(4月10日)では、数を絞った室内楽的なアンサンブルをお楽しみいただけるような構成となっています。

——最近は現代音楽やアンサンブルも積極的に取り上げていますね。
芦田 そうですね、私たちも新しい音楽に注目していますが、その流れでもうひとつ、クラングフォルム・ウィーンという、新しい作品に取り組んでいるウィーンの団体です。彼らもやはりブーレーズに対して思い入れがあるようで、ブーレーズを偲ぶとともに、ルチアーノ・ベリオもちょうど100歳なので、2人のBBが生誕100年ということにちなみ、ブーレーズとベリオの作品を集めたプログラムを3月26日に小ホールで演奏します。
——クラングフォルム・ウィーンの公演はもう1回予定されていますね。
芦田 現代音楽を専門とする彼らにとってもヨハン・シュトラウスⅡ世は大切な作曲家のようです。ウィーンでもシュトラウスのワルツやポルカを作り直した(現代音楽風にアレンジし直した)新作の世界初演を今年の1月に行っており、それと同じものを今回、聴かせてくれます(3月28日)。休憩なしで約1時間のプログラムなので、若い聴衆の皆さんにもお楽しみいただけるかと思います。この2回の公演を通してクラングフォルム・ウィーンの魅力を日本のファンにもご紹介できるものと考えています。
注 クラングフォルム・ウィーンは1985年に指揮者のベアート・フラーが中心となってウィーンで結成された現代音楽を専門とするアンサンブル。クラウディオ・アバドが主宰したウィンナー・モデルンなどで注目を集め、ザルツブルク音楽祭をはじめとする世界的な音楽祭やコンサート・シリーズに招聘されている。パブロ・エラス=カサド、インゴ・メッツマッハー、ケント・ナガノといった現代音楽にも積極的に取り組む名指揮者たちとも多数共演。メンバーはオーストリアのほか欧米各国の25人の音楽家で構成されている。

——トレヴァー・ピノック指揮、紀尾井ホール室内管弦楽団も登場します。
芦田 紀尾井ホール室内管弦楽団には、これまでも何回か出演していただいていますが、トレヴァー・ピノックさんが首席指揮者に就任されてとてもよい成果があがっているということで今回、J・S・バッハの作品を演奏していただくことになりました(3月23日)。バッハの伝道者としてかけがけえのない方ですから、どのような音楽を届けてくださるのか、楽しみです。

——東京・春・音楽祭といえば、上野の博物館や美術館を会場にしたコンサートが毎年、注目を集めています。
芦田 今年も上野公園にある博物館、美術館にお世話になりながら開催しますが、2つ形があります。ひとつは各博物館や美術館で特別展、絵画展が開かれていますが、それに合わせたコンサートを企画するというものです。西洋美術館では〝所蔵している作品から見えるもの〟というテーマで、問いかけ的な特別展が開催されます。学芸員の方のお話の後に演奏をします。取り上げる楽曲は美術作品の時代に合わせたものとなります。一方、東京都美術館ではミロ展が開かれています。ミロ自身が音楽家とも関係がありましたから、武満徹さんもそのひとりですが、作曲家とミロという関係にフォーカスする公演を予定しています。もうひとつ、東京国立博物館での〝東博でバッハ〟の公演は今年、70回を超えます。基本的には日本の若手音楽家の皆さんが出演していますが、今年はピアニストのイノン・バルナタンが登場します。そのほかにも今年没後50年のショスタコーヴィチにちなみ、N響メンバーによるショスタコーヴィチのクァルテットの公演を予定しています。また、ルドルフ・ブッフビンダーさんが、シューベルトの作品でリサイタルを1回、N響メンバーと室内楽の公演を開催するのも注目ですね。

——ご紹介いただきたい公演はまだまだありますが、さらなる詳細は音楽祭のホームページをご覧いただくとして、最後に毎日クラシックナビの読者にメッセージをお願いします。
芦田 2025年の東京・春・音楽祭は3月14日から4月20日まで上野公園を中心に開催いたします。上野公園に桜が溢れる時期に、音楽でも公演全体を満たすような形で、お祭りのようにやっていきたいと思います。演奏者も聴衆の皆さまも参加者です。みんなのお祭りにしていければ嬉しいです。春の上野にどうぞお集まりください。
——ありがとうございました。

※各公演の詳細は東京・春・音楽祭のホームページをご参照ください。
東京・春・音楽祭

みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。