東京・春・音楽祭2024 ブラームスの室内楽Ⅺ

奏者の配置が変われば音楽も変わる、弦楽四重奏の奥深さを感じた演奏会

東京・春・音楽祭は選りすぐったキャスティングによる室内楽も売り物。今回も本欄でいくつか報告済みだ。当夜のブラームス弦楽四重奏曲全集も、興味深い成果を聴かせた。

メンバーの組成は実に巧み。ソリストとして大活躍の周防亮介と、飛ぶ鳥を落とす勢いの葵トリオの小川響子をヴァイオリンに迎え、曲によってポジションを交代させた。そしてヴィオラに川本嘉子、チェロには向山佳絵子と名手で固めた。常設グループで腕を磨く小川のほか、川本、向山は過去に在京オケで首席奏者を経験している。
今回は第1、3番で周防がファースト、小川がセカンドを担当し、第2番ではその逆というフォーメーションになった。全員がお互いをよく聴き合って、緊密な合奏体を築き上げる方向性は同じとしても、トップ奏者の変更は演奏のキャラクターに大きな違いをもたらした。

巧みなメンバー組成でブラームス弦楽四重奏全曲を披露した。写真左からヴァイオリンの周防、小川、チェロ向山、ヴィオラ川本 (C)平舘平/東京・春・音楽祭2024
巧みなメンバー組成でブラームス弦楽四重奏全曲を披露した。写真左からヴァイオリンの周防、小川、チェロ向山、ヴィオラ川本 (C)平舘平/東京・春・音楽祭2024

周防がトップに座ると、性格的には、いわゆる第1ヴァイオリン型のクァルテットになる。周防の個性を核にしつつ、あとの3人がそれぞれのポジションを守る格好になるためか、全体の表情はむしろ端整で、禁欲的ですらある。最初の第1番ハ短調はあまり粘らず、すっきりした叙情が浮かび、さらりとした春の夜風のような感触。
曲想が明るい第3番変ロ長調は、休憩後の後半だったこともあってか硬さがとれ、第3、4楽章では川本が闊達なソロで見せ場を作った。

第2番で第1ヴァイオリンを担当した小川が思い切りの良いリードをみせた(写真左) (C)平舘平/東京・春・音楽祭2024
第2番で第1ヴァイオリンを担当した小川が思い切りの良いリードをみせた(写真左) (C)平舘平/東京・春・音楽祭2024

これに対し第2番イ短調でトップを取った小川は、普段の流儀で思い切りの良いリードをみせ、葵トリオのはじけた活力を思い起こさせた。これに促されてアンサンブルに積極性が加わり、低弦2人の表情がみるみる豊かになった。小川は時に右足を伸ばす前傾姿勢で乗りのよい先導役を演じ、全体に開放的で伸びやかな歌心が表れた。終楽章の活気が印象的。
かくも弦楽四重奏のケミカルは複雑で、奥深いことを再認識させる一夜となった。
(深瀬満)

公演データ

東京・春・音楽祭2024 ブラームスの室内楽Ⅺ
2024年4月13日(土)18:00東京文化会館 小ホール

ヴァイオリン:周防亮介、小川響子
ヴィオラ:川本嘉子
チェロ:向山佳絵子

プログラム
ブラームス:
弦楽四重奏曲 第1番 ハ短調 Op.51-1
弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op.51-2
弦楽四重奏曲 第3番 変ロ長調 Op.67

深瀬 満
深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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