歌・演奏・演技が織りなすオペラの醍醐味 パレルモ・マッシモ劇場「椿姫」

パレルモ・マッシモ劇場来日公演「椿姫」=6月25日 大阪公演より (C)森口ミツル
パレルモ・マッシモ劇場来日公演「椿姫」=6月25日 大阪公演より (C)森口ミツル

パレルモ・マッシモ劇場の東京公演からヴェルディの歌劇「椿姫」(フランチェスコ・イヴァン・チャンパ指揮、マリオ・ポンティッジャ演出)のステージについて報告する。取材したのは6月16日の公演で、エルモネラ・ヤオ(ヴィオレッタ)、フランチェスコ・メーリ(アルフレード)らのキャスト。(宮嶋 極)

 

イタリアの歌劇場の引っ越し公演はコロナ禍以降、これが初めてとなるだけに開演前から観客・聴衆の期待感が満ちているような雰囲気が会場全体を包んでいた。さらに終演後にはステージ上の出演者たちも来日が実現し、公演が成功したことに対する喜びを全身で表していた。

 

久しぶりのイタリアの歌劇場のオペラ上演は歌(声)、演奏、そして演技が一体となり、作品の世界を情感豊かに構築していくものであるということを改めて認識させてくれるものであった。楽譜の小節のタテ線を意識させない、柔軟に伸縮する歌にオーケストラが自然に寄り添っていく様はイタリアならではのもの。日本国内におけるオペラ上演の水準も十分なクオリティーで行われるようになったが、良し悪しではなくイタリアのそれはまったく別物であるなあ、と今さらながらに感心させられた。

 

主役のエルモネラ・ヤオは冒頭からヴィオレッタが肺結核を患っていることを強く意識した役作り。やたらに声を張ったりせずに弱音をうまくコントロールして、次第に弱っていくヴィオレッタの悲哀を繊細に表現し、第4幕では客席のあちらこちらから女性のすすり泣きが聞こえてきたほどの迫真の歌唱と演技であった。アルフレード役のフランチェスコ・メーリは柔らかで伸びやかな美声をタップリと聴かせるような歌唱で大喝采を集めていた。ジェルモンを演じたアルベルト・ガザーレも聴かせどころではテンポを落として深みのある歌を聴かせた。

エルモネラ・ヤオ(ヴィオレッタ)とフランチェスコ・メーリ(アルフレード)=6月25日 大阪公演より (C)森口ミツル
エルモネラ・ヤオ(ヴィオレッタ)とフランチェスコ・メーリ(アルフレード)=6月25日 大阪公演より (C)森口ミツル

一方、指揮のチャンパは情熱的にオケをリードしながらも、歌手たちの表現を自在に支えていく職人的手腕が光った。オケの柔らかなサウンドは声に寄り添い、一体となって聴衆の感情に訴えかけていくものであった。

 

ドイツを発信源として世界的に演出主導のオペラ上演が増えた中で、イタリアでは今でもオペラの〝主役〟は歌であるということをすべての演者と演出チームがそろって確信していることが伝わってくるステージでもあった。舞台装置はシンプルで設定やストーリーの読み替えは一切なかったが、古びた印象を与えることもなく、多くの観客・聴衆が十分に楽しめたことは終演後のカーテンコールにおける鳴りやまぬ大喝采からも明らかであろう。前述した通り、カーテンコールに登場した歌手や指揮者は何度も客席に向かって大きく手を振り喜びを表すなど、会場全体がひとつになったような盛り上がりに長かったコロナ禍の出口がようやく見えてきたように感じた。

 

なお、イタリアからは今年9月にローマ歌劇場が、11月にはボローニャ歌劇場が来日公演を予定している。

歌を主体に演出と演技が一体となって魅了した上演=6月25日 大阪公演より (C)森口ミツル
歌を主体に演出と演技が一体となって魅了した上演=6月25日 大阪公演より (C)森口ミツル

公演データ

【パレルモ・マッシモ劇場日本公演 ヴェルディ:「椿姫」】

6月16日(金)18:30 東京文化会館大ホール ※取材公演

ヴェルディ:歌劇「椿姫」(全3幕、イタリア語上演日本語字幕付き)

指揮:フランチェスコ・イヴァン・チャンパ
演出:マリオ・ポンティッジャ
舞台美術:フランチェスコ・ジート&アントネッラ・コンテ
振付:ガエターノ・ラ・マンティア

ヴィオレッタ:エルモネラ・ヤオ
アルフレード:フランチェスコ・メーリ
ジェルモン:アルベルト・ガザーレ
フローラ:トニア・ランジェッラ
ドゥフォール男爵:イタロ・プロフェリシェ
ドビニー侯爵:ルチアーノ・ロベルティ
アンニーナ:フランチェスカ・マンゾ
ガストン子爵:ブラゴイ・ナコスキ
医師グランヴィル:ジョヴァンニ・アウジェッリ
パレルモ・マッシモ劇場合唱団/管弦楽団

Picture of 宮嶋 極
宮嶋 極

みやじま・きわみ

放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。

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