大阪国際室内楽コンクール&フェスタは、1993年に始まり、3年ごとに開催されている。2020年の第10回がコロナ禍により中止になり、5月12日から18日まで大阪の住友生命いずみホール等でひらかれた今回は、6年ぶりの開催であった。コンクールとフェスタからなり、コンクールでは弦楽四重奏曲の第1部門とピアノ三重奏/四重奏の第2部門の2つの部門が開催された。フェスタは、楽器の種類や編成も自由、課題曲なしで審査される。今年の結果は、第1部門の第1位がクァルテット・インダコ(イタリア)、第2位がほのカルテット(日本)、第3位がテラ弦楽四重奏団(アメリカ)、第2部門の第1位がカピバラ・ピアノ・クァルテット(ドイツ)、第2位がトリオ・パントゥム(フランス)、第3位がトリオ・ミケランジェリ(ドイツ)であった。日本の参加団体では、ほのカルテット(岸本萌乃加、林周雅、長田健志、蟹江慶行)が第1部門第2位となったのが注目される。
5月21日にサントリーホールブルーローズで開催されたコンクール優勝団体披露演奏会には、カピバラ・ピアノ・クァルテットとクァルテット・インダコが出演した。
カピバラ・ピアノ・クァルテット(マリオ・ヘリング、岡田脩一、近衛剛大、ミンジ・キム)は、第2部門(ピアノ三重奏/四重奏部門)での初のピアノ四重奏での優勝団体となった。この日は、まず、細川俊夫の「レテの水」(2015)を演奏。弦楽器はトレモロやロング・トーンやトリルなど繊細な音の動き。ピアノにメロディーも現れる。4人が息を合わせる。ピアノが弦楽器と溶け合い、一体化した。続いて、ブラームスのピアノ四重奏曲第3番。弦楽器3人の統一感が素晴らしい。4人とも技量が高く、とても洗練された音楽を奏でる。第1楽章での4人のうねるようなグルーヴ感、第2楽章での波打つような音楽、第3楽章でのチェロの歌などが印象に残った。2021年に小澤征爾国際室内楽アカデミーで岡田と近衛とキムが出会ったのをきっかけに結成された若いアンサンブルであり、今後の大きな進化と活躍が期待される。
クァルテット・インダコ(エレノア・マツノ、イダ・ディ・ヴィータ、ジャミアング・サンティ、コジモ・カロヴァニ)は、すでにいくつかの国際的な賞を受賞し、プロフェッショナルとしての活動を行っている。この日はシューベルトの弦楽四重奏曲第15番を弾いた。4人の親密な空気感が素晴らしい。第1ヴァイオリンは情熱的で多彩な表現。第2ヴァイオリンとヴィオラは、派手さなく、アンサンブルに徹する。チェロが非常に魅力的な歌心を披露(とりわけ第2楽章)。音色も良く、カロヴァニこそがアンサンブルの要ではないだろうかと思った。全体としては、第2楽章でハッとするような弱音表現があり、ヴィブラートとノン・ヴィブラートの使い分けもよく考えられている。第4楽章ではシューベルトの長調と短調の変化を明確に描いた。
公演データ
5月21日(日)14:00サントリーホールブルーローズ
◇クァルテット・インダコ(コンクール第1部門 弦楽四重奏)
シューベルト:弦楽四重奏曲第15番D887
◇カピバラ・ピアノ・クァルテット(コンクール第2部門 ピアノ四重奏)
細川俊夫:レテの水
ブラームス:ピアノ四重奏曲第3番Op.60
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。