この春開催された在京オーケストラの公演のレビュー第2弾は東京・春・音楽祭でも活躍した東京都交響楽団、NHK交響楽団、2団体の主催公演について、振り返る。(宮嶋 極)
【東京都交響楽団 都響スペシャル(3/16)】
東京都交響楽団はこの春、東京・春・音楽祭でブラームスのドイツ・レクイエム(4月8日、フィネガン・ダウニー・ディアー指揮)で、清新で現代感覚にあふれた演奏を披露した一方で、3月、4月に音楽監督の大野和士が複数回登場し、いずれも意欲的なプログラムで高い評価を得た。リゲティの作品を中心に取り上げた定期演奏会Bシリーズと都響スペシャルは当サイト「先月のピカイチ、来月のイチオシ」でも多くの選者が3月のピカイチに推したほどの名演となった。
ここではもうひとつの3月定期、Aシリーズと都響スペシャルで取り上げたマーラーの交響曲第2番「復活」について報告する。取材したのは16日、サントリーホールでの公演。
大野がコロナ禍を経て変わったと感じているのは筆者だけであろうか。コロナ禍以前だって、作品を的確に掘り下げた解釈に加え、海外での豊富な演奏経験を基に欧米の最新スタイルも意識した非の打ちどころのない演奏を聴かせてきた。その一方で、彼の内なる情熱や気迫が聴衆に完全には伝わりきれていないように思える演奏が散見されるように筆者は感じていた。ところが、コロナ禍以降は大野の気合や作品に対する共感といったエモーショナルな面がストレートに発露されるようになり、それがオケの演奏にさらなる高揚をもたらすことで聴衆にもその熱が伝播し、感動の波がより大きなものへと変化していった。この日のマーラーもまさにそうした演奏であった。大編成の作品を指揮した時の組み立てや声楽とオケの融合による響きの構築の上手さは相変わらずであったが、そこに大野のほとばしる情熱が加わって都響も渾身(こんしん)の熱演を繰り広げた。終演後の盛大な喝采はオケ退場後も鳴りやまず、大野が再びステージに登場し歓呼に応えていた。
【NHK交響楽団4月定期公演Aプログラム】
N 響の4月定期は前首席指揮者で名誉指揮者に就任したパーヴォ・ヤルヴィが登場し、A・B・Cすべてのプログラムを指揮した。取材したのはAプロ2日目、NHKホールでの公演。プログラムはリヒャルト・シュトラウスの「ヨセフの伝説」から交響的断章とアルプス交響曲。パーヴォが首席指揮者在任時に進めていたリヒャルト・シュトラウスの作品を継続的に取り上げるシリーズの一環で、元々は20年5月のB定期で演奏される予定だったが、コロナ禍のため中止に。その後もコロナ禍が収束せず、予定されても変更を余儀なくされ、今回ようやくの実現となった。それだけにファンの期待も大きかったが、それを上回る密度の濃い演奏を聴かせてくれた。
それにしてもパーヴォが指揮すると、N響のポテンシャルが余すところなく引き出されるのには感心してしまう。単に指揮者の目指す方向に向かって一糸乱れぬ演奏をするというのではなく、各パートやプレイヤー個々人の音楽性が能動的に発揮されて、それがひとつのアンサンブルへと収れんされていく。アルプス交響曲のような大編成で、多くの声部が複雑に絡み合いながら壮大な音楽を構築していく作品ではその効果は絶大で、N響の実力が普段にも増して高く感じられる充実の演奏となった。当然終演後の拍手も盛大で、オケ退場後も鳴りやむことがなく、パーヴォはステージに呼び戻されていた。
パーヴォの首席指揮者としての任期最後の3年間がコロナ禍のため、N響との共演機会が極端に減ってしまったことは今さらながら残念に思われる。パーヴォ時代の完成形を見ぬまま、任期が終わってしまった印象も拭えない。それを補うためにも今後は名誉指揮者としてブロムシュテットのように毎年1度は客演してほしいものである。
公演データ
3月15日(水)19:00 東京文化会館大ホール、16日(木)19:00 サントリーホール
指揮:大野 和士
ソプラノ:中村 恵理
メゾ・ソプラノ:藤村 実穂子
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平 恭平
コンサートマスター:矢部 達哉
マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」
4月15日(土)18:00、16日(日)14:00 NHKホール
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
コンサートマスター:篠崎 史紀
リヒャルト・シュトラウス:「ヨセフの伝説」から交響的断章
リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲Op.64
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。