6月は、NHK交響楽団と東京フィルハーモニー交響楽団がラフマニノフの初期の交響曲第1番を取り上げ、山田和樹&バーミンガム市交響楽団が彼の交響曲第2番を演奏するなど、ラフマニノフの生誕150周年がますます熱を帯びているように感じられた。
その一方で、同じ年に生まれたマックス・レーガーの生誕150周年はほとんど注目されていない。それでも、この秋に来日するキリル・ペトレンコ&ベルリン・フィルがレーガーの最も知られている作品「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」を取り上げるのは、大きなイベントといえるだろう(ペトレンコは地元でのベルリン・フィルの2023/24シーズン・オープニング・コンサートでも最初にこの曲を演奏する)。
1873年3月19日、ドイツのバイエルン地方のブラントに生まれたレーガーは、早くから音楽の才能を示し、1907年にライプツィヒ音楽院の作曲科教授となり、1911年にはマイニンゲン宮廷楽団の宮廷楽長に任命された。しかし、1916年、43歳の若さで急死。彼は、劇場音楽や標題音楽ではない〝絶対音楽〟の作曲家として知られ、管弦楽曲から室内楽曲、器楽曲に至るジャンルに数多くの作品を残している。レーガーが晩年に書いた「3つの無伴奏ヴィオラ組曲」は、独奏作品の少ないヴィオラにとっては重要なレパートリーに数えられ、しばしば演奏されている。
「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」は1915年に初演された。モーツァルトの主題とは、彼のピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」第1楽章の主題を指し、その優美な旋律が20世紀初頭のモダンな管弦楽法で変奏されていく。音は後期ロマン派風。約30分を要する作品で、最後に長大なフーガが付けられ、レーガーの作曲家としての技量が示される。今年はベルリン・フィルの来日公演のほか、ファビオ・ルイージ&NHK交響楽団も12月定期公演で演奏する。
レーガーの管弦楽作品のなかで「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」に次いでよく演奏されるのは「ベックリンによる4つの音詩」(1913年初演)であろう。スイスの画家、アルノルト・ベックリンの絵画からのインスピレーションに基づく作品で、レーガーにしては珍しい標題的な音楽といえる。「ヴァイオリンを弾く隠者」「波間の戯れ」「死の島」「バッカナール」の4曲からなり、なかでも「死の島」は同じ絵画に基づいて同い年のラフマニノフも管弦楽作品を残している(ラフマニノフの方が先に作曲)。2つの「死の島」を聴き比べてみるのも面白い。2017年11月に上岡敏之&新日本フィル及びユベール・スダーン&東京交響楽団が取り上げた(前者はライブ録音がCD化されている)。今年は12月に大野和士&東京都交響楽団が演奏する。8月の髙橋直史&大阪交響楽団は「ヴァイオリンを弾く隠者」のみを取り上げる。
そのほか、9月にはゲオルク・フェリッチュ&神奈川フィルがレーガーの「喜劇的序曲」を演奏する。これは躍動的で楽しい小品である。
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。