2月9日、山田和樹指揮読売日本交響楽団の演奏会で、バルトークの「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽」を聴いた。楽器編成のみが示された即物的なタイトル。1937年に初演されたこの作品の、弦楽器の滑らかな音と打楽器の乾いた音の組み合わせは、とても20世紀らしい響きに感じられる。この作品では、〝バルトーク・ピッツィカート〟と呼ばれる(ただし、バルトーク以前からあった)、弦を指板と垂直に引っ張り上げ、指板に叩きつける打楽器的な奏法が用いられたり、19世紀末に発明されたチェレスタが使われたりするなど、当時の新しい音が積極的に取り入れられている。
バーンスタインの「セレナード」(1954年初演)は、ヴァイオリン協奏曲のスタイルで書かれているが、オーケストラは、弦楽合奏(ハープを含む)と打楽器のみの編成であり、バルトークの「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽」から影響を受けたに違いない。弦楽合奏と打楽器(5人の奏者を要する)の組み合わせが、とてもクールに聴こえる。
1月13日には、トゥガン・ソヒエフ指揮NHK交響楽団でロシアのシチェドリンがバレエ用に編曲した「カルメン」組曲(1967年初演)を聴いた。これも弦楽合奏と打楽器のための作品であり、5人の打楽器奏者たちの妙技を満喫した。グロッケンシュピール、シロフォン、ヴィブラフォン、マリンバ、チューブラー・ベルなど音程のある打楽器が旋律を歌うのが特徴的。近年でもミハイル・プレトニョフ&東京フィルハーモニー交響楽団(2022年6月)、シルヴァン・カンブルラン&読響(2023年11月)が取り上げるなど、意外な人気曲となっている。
上記の作品の流れにあるのか、ショスタコーヴィチも交響曲第14番(1969年初演)は、 独唱者(ソプラノとバス)、弦楽合奏、打楽器、チェレスタという編成で書かれている。「死者の歌」とも呼ばれるこの作品ではシロフォン(木琴)が活躍。シロフォンは骸骨をイメージさせるものとしてサン=サーンスの「死の舞踏」でも使用されている。また、ショスタコーヴィチはチェレスタを好んで用いた作曲家の一人といえるだろう。
アルヴォ・ペルトの「フラトレス」は、さまざまなバージョンがあるが、弦楽合奏と打楽器のための版(1983年初演)がよく演奏される。ペルト独特のティンティナブリ様式(「ティンティナブリ」とは小さな鐘を意味する)にしたがって書かれた静謐(せいひつ)な作品。ここでは打楽器(拍子木と大太鼓が効果的に使われている)も静かに調べを奏でる。ペルトの「カントゥス(ベンジャミン・ブリテンの追悼)」(1977年初演)は弦楽合奏と鐘のための作品。
2月16日の久石譲指揮新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会では、久石譲の「I Want to Talk to You」(2021年初演)を聴いたが、弦楽四重奏、弦楽合奏、打楽器という編成だった。ここではヴィブラフォンをコントラバスの弓で弾く(擦る)〝ボウイング〟という奏法も用いられている(そうすることで高い倍音が得られる)。20世紀に始まった弦楽器+打楽器という編成が、21世紀にも受け継がれていることを実感した。
やまだ・はるお
音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。