10月は最近では少なくなった海外オペラの引っ越し公演、海外オーケストラの来日、内外の人気アーティストのコンサートなど芸術の秋にふさわしい充実の公演が各地で行われた。そこで今回は10月のステージからピカイチを、12月開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただいた。
先月のピカイチ
◆◆10月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈TOPPANホール25周年 室内楽フェスティバル フォーレ四重奏団とともに〉
10月2日(木)TOPPANホール ※初日
フォーレ四重奏団/日下紗矢子(ヴァイオリン)/ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ)/石川滋(コントラバス)
モーツァルト:ピアノ四重奏曲第2番/同:弦楽五重奏曲/シューベルト:ピアノ五重奏曲「鱒」
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〈東京都交響楽団 第1028回定期演奏会Cシリーズ〉
10月5日(日)東京芸術劇場コンサートホール
ヨーン・ストルゴーズ(指揮)/ヴェロニカ・エーベルレ(ヴァイオリン)
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲—イェルク・ヴィトマンによるカデンツァ(日本初演)付/シベリウス:交響曲第3番
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~日下紗矢子&フォーレ四重奏団の快演~
5日間にわたり開催されたTOPPANホールの室内楽フェスティバルは、フォーレ四重奏団を中心に快演の連続。ここでは日下紗矢子をリーダーに迎えたモーツァルトの「K516」を筆頭とする初日の演奏を挙げる。都響の方は、シベリウスでの剛直な演奏も良かったが、エーベルレが弾いたベートーヴェンの協奏曲でのヴィトマンによるカデンツァが傑作で、少々長すぎるけれども、音楽そのものはすこぶる巧く出来ていて、面白い。
来月のイチオシ
◆◆12月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ 「ファウストの劫罰」〉
12月13日(土)、14日(日)東京芸術劇場コンサートホール
マキシム・パスカル(指揮)/宮里直樹・山本耕平(ファウスト)/小泉詠子・池田香織(マルグリート)/北川辰彦・友清崇(メフィストフェレス)/加藤宏隆・水島正樹(ブランデル)/二期会合唱団/読売日本交響楽団
ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」(セミ・ステージ形式)
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〈新国立劇場 グルック:「オルフェオとエウリディーチェ」〉
12月4日(木)、6日(土)、7日(日)新国立劇場オペラパレス
園田隆一郎(指揮)/勅使川原三郎(演出・振付・美術・衣裳・照明)/サラ・ミンガルド(オルフェオ)/ベネデッタ・トーレ(エウリディーチェ)/杉山由紀(アモーレ)/佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ、他(ダンス)/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
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~稀な「ファウストの劫罰」ライブを気鋭の指揮者で~
ベルリオーズの最大傑作「ファウストの劫罰」をナマで聴ける機会はめったにない。パスカルはこれまで「ルル」「金閣寺」「サムソンとデリラ」などオペラで良い指揮を聴かせているので、期待できよう。今回は映像と照明の演出を加えての上演とのこと。また「オルフェオとエウリディーチェ」は2022年にプレミエされたものの再演で、あれはなかなか良かった。前回の鈴木優人に替わり、今回は園田隆一郎が指揮する。オケの音も変わるか?
先月のピカイチ
◆◆10月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈TOPPANホール25周年 室内楽フェスティバル フォーレ四重奏団とともに〉
10月2日(木)、4日(土)、5日(日)、7日(火)、8日(水)TOPPANホール
フォーレ四重奏団/日下紗矢子(ヴァイオリン)/ニルス・メンケマイヤー(ヴィオラ)/石川滋(コントラバス)/アネッテ・ダッシュ(ソプラノ)
(2日)モーツァルト:ピアノ四重奏曲第2番/シューベルト:ピアノ五重奏曲 「鱒」他
(4日)ブラームス:ヴィオラ・ソナタ第2番/シューマン:ピアノ五重奏曲、他
(5日)ブラームス:ピアノ四重奏曲第3番より/ワーグナー:ヴェーゼンドンク歌曲集、他
(7日)シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ/シェーンベルク:「浄められた夜」他
(8日)キュンネッケ:オペレッタ「リーセロット」より/R・シュトラウス:「4つの歌」より、他
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〈ヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団 定期公演ABCプログラム〉
(Bプロ)10月9日(木)サントリーホール
セバスティアン・ジャコー(フルート)/エヴァ・オリカイネン(カバーコンダクター)
グリーグ:組曲「ホルベアの時代から」/ニールセン:フルート協奏曲/シベリウス:交響曲第5番
(Aプロ)18日(土)NHKホール
クリスティーナ・ランツハマー(ソプラノ)/マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト(メゾソプラノ)/ ティルマン・リヒディ(テノール)/ スウェーデン放送合唱団/ミシェル・タバシュニク(カバーコンダクター)
ストラヴィンスキー:詩篇交響曲/メンデルスゾーン:交響曲第2番「讃歌」
(Cプロ)24日(金)NHKホール
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)/下野竜也(カバーコンダクター)
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番、交響曲第3番
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~類を見ない興趣、心揺さぶる名演~
「TOPPANホール25周年〜」は、8月のイチオシ同様に5公演合わせての一番。フォーレQの精緻な一体感とメンバー個々によるスリリングな競演を共生させた各公演には、TOPPAN以外にない興趣が横溢(おういつ)し、日下紗矢子が参加した楽曲の快演や示唆に富んだ歌とのコラボが特に印象的だった。98歳のブロムシュテット/N響の弛緩しない名演も同じく3プロまとめて。中でもシベリウスの5番とブラームスの3番は感動的だった。
来月のイチオシ
◆◆12月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈南紫音 ヴァイオリン・リサイタル〉
12月6日(土)王子ホール
南紫音(ヴァイオリン)/大井駿(チェンバロ)
ヘンデル: ヴァイオリン・ソナタ(全曲)
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〈ファンタスティック☆クリスマス2025 吹奏楽で聴く人類の宝「第九」〉
12月19日(金)サントリーホール
松井慶太(指揮)/ソプラノ:隠岐彩夏(ソプラノ)/山下牧子(メゾソプラノ)/笛田博昭(テノール)/加藤宏隆(バス)/東京混声合唱団/東京佼成ウインドオーケストラ
フンパーディンク(J・カンツ編):歌劇「ヘンゼルとグレーテル」序曲/ベートーヴェン(保科洋編):交響曲第9番「合唱付き」
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~ヘンデルのソナタ全曲を俊英・南の見識で~
ここはあえて隠れてしまいそうな公演をピックアップしたい。バッハに比べると日の目を見ないヘンデルのソナタ全曲(のみ)をチェンバロと奏でる南紫音のリサイタルは、俊英世代の奏者には稀なる見識の証し。真摯な実力者の本領をじっくりと噛み締めたい。佼成ウインドの「第九」は、吹奏楽でいかに響くのか?が興味津々。オーケストラによる年末「第九」にはない新鮮さを味わえそうだし、大御所・保科洋の新アレンジも聴きものだ。
先月のピカイチ
◆◆10月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈〜被爆80周年Music for Peace〜広島交響楽団 マルタ・アルゲリッチ特別公演〉
10月16日(木)広島文化学園HBGホール
クリスティアン・アルミンク(指揮)/マルタ・アルゲリッチ、角野隼斗、酒井茜(ピアノ)/アニー・デュトワ=アルゲリッチ(語り)
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番/プロコフィエフ:古典交響曲/朗読:クララ・シューマンの手紙より/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番
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〈バッハ2025 綾なす調和 Vol.2「バッハのプリズム」〉
10月24日(金)住友生命いずみホール
佐藤俊介(ヴァイオリン)/アンサンブル赤いはりねずみ
ハインリッヒ・バッハ:5声のソナタ/L・マルシャン:オルガン曲集第5巻より(弦楽アンサンブル版)/J・S・バッハ:ヴァイオリン協奏曲ホ長調BWV1042、他
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~被爆80周年、アルゲリッチ&広響の平和のための音楽~
アルゲリッチは2015年の初共演で「Music for Peace(平和のための音楽)」を掲げる広島交響楽団をすっかり気に入り、「広響平和音楽大使」を拝命した。広島の被爆80周年に因む5度目の共演は初共演と同じベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番。ここまで機嫌よくリラックス、天衣無縫(てんいむほう)のアルゲリッチは珍しい。佐藤俊介のバッハは浜離宮朝日ホールで行ったベートーヴェンのソナタ全曲ともども演奏技巧のみならず、演奏会全体を貫くアイデアの斬新さで魅了した。
来月のイチオシ
◆◆12月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈北村朋幹 ピアノ・リサイタル Real-time Vol. 8〉
12月20日(土)ムジカーザ
メシアン:「幼児イエスに注ぐ20のまなざし」
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〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ 「ファウストの劫罰」〉
12月13日(土)、14日(日)東京芸術劇場コンサートホール
マキシム・パスカル(指揮)/宮里直樹・山本耕平(ファウスト)/小泉詠子・池田香織(マルグリート)/北川辰彦・友清崇(メフィストフェレス)/加藤宏隆・水島正樹(ブランデル)/二期会合唱団/読売日本交響楽団
ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」(セミ・ステージ形式)
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~稀有(けう)なフランスの大作プログラム2選~
「第九」「メサイア」「くるみ割り人形」の洪水をかいくぐって、滅多に聴けないフランス音楽の大作を体験できる機会が立て続けに訪れる。ピアニストの枠を超え、様々な角度から現代の音楽の諸相を解析してきた孤高のアーティスト、北村朋幹がついにメシアンの演奏時間2時間を超える大作に挑む。世界初演80年の節目、しかもクリスマスのタイミングだ。二期会のベルリオーズは何より、フランスの俊英マキシム・パスカルの指揮に注目したい。
先月のピカイチ
◆◆10月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
※同率2公演
〈NHK交響楽団 第2046回定期公演Aプログラム〉
10月18日(土)NHKホール
ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)/クリスティーナ・ランツハマー(ソプラノ)/マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト(メゾソプラノ)/ティルマン・リヒディ(テノール)/スウェーデン放送合唱団
ストラヴィンスキー:詩篇交響曲/メンデルスゾーン:交響曲第2番「讃歌」
〈内田光子 ピアノ・リサイタル 2025〉
10月28日(火)サントリーホール
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番、31番、32番
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なし
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~真骨頂を発揮、ブロムシュテット&内田光子~
ブロムシュテット指揮のN響と内田光子のリサイタルは、今の彼らから生まれる、己を無にした先に存在するような音楽に感銘を受け2公演をピカイチとし、次点は無しに。
ブロムシュテットは前週のBプロより更に足取りも軽く、旧約聖書に基づく合唱付きの2曲を自然体で見晴らし良く演奏。ストラヴィンスキーで合唱の慈愛に満ちた「ハレルヤ」が心に沁みた。内田のピアノから作曲家がこの3曲でソナタの旅を終えた意味を教えられた。
来月のイチオシ
◆◆12月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈新国立劇場 グルック:「オルフェオとエウリディーチェ」〉
12月4日(木)、6日(土)、7日(日)新国立劇場オペラパレス
園田隆一郎(指揮)/勅使川原三郎(演出・振付・美術・衣裳・照明)/サラ・ミンガルド(オルフェオ)/ベネデッタ・トーレ(エウリディーチェ)/杉山由紀(アモーレ)/佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ他(ダンス)/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
次点
〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ 「ファウストの劫罰」〉
12月13日(土)、14日(日)東京芸術劇場コンサートホール
マキシム・パスカル(指揮)/宮里直樹・山本耕平(ファウスト)/小泉詠子・池田香織(マルグリート)/北川辰彦・友清崇(メフィストフェレス)/加藤宏隆・水島正樹(ブランデル)/二期会合唱団/読売日本交響楽団
ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」(セミ・ステージ形式)
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~指揮者の個性に注目! 園田×パスカル~
新国立劇場「オルフェオとエウリディーチェ」は勅使川原三郎による美しい舞台の再演。イタリアの歌劇場はじめオペラ経験の豊かな園田隆一郎が当劇場本公演初タクトを振る。オルフェオを歌う屈指の名アルト、サラ・ミンガルドにも注目だ。二期会の「ファウストの劫罰」は色彩感あふれる指揮が特長のマキシム・パスカル。ベルリオーズの変化に富んだオーケストレーションをどのように表現するのか。2人の指揮者の個性を楽しみたい。
先月のピカイチ
◆◆10月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈ウィーン国立歌劇場2025年日本公演「ばらの騎士」〉
10月20日(月)東京文化会館
フィリップ・ジョルダン(指揮)/オットー・シェンク(演出)/カミラ・ニールント(元帥夫人、主催者表記=ニールンド)/ピーター・ローズ(オックス男爵)/サマンサ・ハンキー(オクタヴィアン)/カタリーナ・コンラディ(ゾフィー、主催者表記=カタリナ)/アドリアン・エレート(ファーニナル)/ウィーン国立歌劇場合唱団、NHK東京児童合唱団/ウィーン国立歌劇場管弦楽団
リヒャルト・シュトラウス:楽劇「ばらの騎士」
次点
〈ヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団 定期公演ABCプログラム〉
(Bプロ)10月9日(木)サントリーホール
セバスティアン・ジャコー(フルート)/エヴァ・オリカイネン(カバーコンダクター)
グリーグ:組曲「ホルベアの時代から」/ニールセン:フルート協奏曲/シベリウス:交響曲第5番
(Aプロ)18日(土)NHKホール
クリスティーナ・ランツハマー(ソプラノ)/マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト(メゾソプラノ)/ ティルマン・リヒディ(テノール)/ スウェーデン放送合唱団/ミシェル・タバシュニク(カバーコンダクター)
ストラヴィンスキー:詩篇交響曲/メンデルスゾーン:交響曲第2番「讃歌」
(Cプロ)24日(金)NHKホール
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)/下野竜也(カバーコンダクター)
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番、交響曲第3番
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~座付きのウィーン国立歌劇場管による唯一無二の「ばらの騎士」~
ウィーン国立歌劇場の「ばらの騎士」はこの劇場、とりわけ事実上のウィーン・フィルである国立歌劇場管による上演でしか味わうことができない唯一無二ともいえる特別なステージだった。詳細は速リポの拙稿(ウィーン国立歌劇場日本公演 リヒャルト・シュトラウス「ばらの騎士」 | CLASSICNAVI)をご覧ください。次点は98歳のブロムシュテットがABC3プロすべてを指揮したN響10月定期をセットで。こだわりのプログラムで多くの聴衆の期待に応える名演を聴かせてくれた。
来月のイチオシ
◆◆12月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈新国立劇場 グルック:「オルフェオとエウリディーチェ」〉
12月4日(木)、6日(土)、7日(日)新国立劇場オペラパレス
園田隆一郎(指揮)/勅使川原三郎(演出・振付・美術・衣裳・照明)/サラ・ミンガルド(オルフェオ)/ベネデッタ・トーレ(エウリディーチェ)/杉山由紀(アモーレ)/佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ他(ダンス)/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団
次点
〈MUZAジルベスターコンサート2025〉
12月31日(水)ミューザ川崎シンフォニーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/東京交響楽団
〈秋山和慶トリビュート〉J・シュトラウスⅡ世:ポルカ「観光列車」/バリー・グレイ:「ザ・ベスト・オブ・サンダーバード」(オリジナル・サウンドトラックから)/チャイコフスキー:「くるみ割り人形」から
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~独自の世界観で創り上げる「オルフェオとエウリディーチェ」~
グルックの名作を舞踊家の勅使川原三郎が演出、振付、美術、衣裳、照明のすべてを担当した異色のプロダクションの再演。2022年のプレミエではオペラとダンスを融合した独自の世界観が観客・聴衆を魅了した。再演ではさらなるブラッシュアップが期待される。次点は今シーズンをもって東響音楽監督を退任するノットにとって監督としては最後のジルヴェスター。12年にわたって黄金時代を築いた両者が万感の思いを込めた熱演を聴かせてくれるだろう。










