長かった猛暑もようやく落ち着き、いよいよ芸術の秋が到来。国内各地で連日、充実のステージが繰り広げられている。そこで今月は9月開催の公演からピカイチを、11月に予定されているコンサートやオペラからイチオシを選者の皆さんに紹介していただく。
先月のピカイチ
◆◆9月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演〉
9月13日(土)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/ミケーレ・ペルトゥージ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
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〈東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ 第147回〉
9月20日(土)東京オペラシティ コンサートホール
ジョナサン・ノット(指揮)/竹山愛(フルート)/荒木良太(オーボエ)/森野美咲(ソプラノ)
ハイドン:交響曲第83番/リゲティ:フルート、オーボエと管弦楽のための二重協奏曲/同:歌劇「ル・グラン・マカーブル」より「マカーブルの秘密」/モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」
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~ムーティの「シモン…」 練達のオペラ指揮者の真骨頂~
なんと言っても巨匠ムーティの凄さ。東京春祭オーケストラをしてドラマを雄弁に語らせるその名人芸は、練達のオペラ指揮者の真骨頂だ。歌手陣も充実、特に代役として駆けつけたペルトゥージの存在感が光る。次点としてはノットと東京響。ただし「マタイ」ではなく、その1週間前の演奏会だ。特にノット得意のリゲティは秀逸で、「マカーブルの秘密」では森野美咲が奇抜なメイクと衣装で大暴れしつつ歌うという「怪演」を披露。
来月のイチオシ
◆◆11月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 日本公演 プログラムB〉
11月15日(土)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール/16日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール/18日(火)サントリーホール
クラウス・マケラ(指揮)
R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」/マーラー:交響曲第5番

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〈新国立劇場 ベルク:歌劇「ヴォツェック」新制作〉
11月15日(土)、18日(火)、20日(木)、22日(土)、24日(月・祝)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/リチャード・ジョーンズ(演出)/トーマス・ヨハネス・マイヤー(ヴォツェック)/ジョン・ダザック(鼓手長)/伊藤達人(アンドレス)/アーノルド・ベズイエン(大尉)/妻屋秀和(医者)/ジェニファー・ディヴィス(マリー)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM 少年合唱団/東京都交響楽団
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~やはりマケラ RCOとの初来日~
またマケラ——と言われようと、やはり目の離せないトレンド指揮者マケラ。しかも今度は、2年後の首席指揮者就任を約束されているRCOとの初来日だ。次点はティーレマン&WPHも、ペトレンコ&BPHをも敢えて避け、R・ジョーンズ新演出による新国立劇場の「ヴォツェック」にした。以前のクリーゲンブルク演出版に替わるほぼ10年ぶりの新プロダクションゆえ期待できよう。大野芸術監督自ら東京都響を率いてピットに入る。
先月のピカイチ
◆◆9月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演〉
9月15日(月・祝)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/ミケーレ・ペルトゥージ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
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〈イェフィム・ブロンフマン ピアノ・リサイタル〉
9月16日(火)東京オペラシティ コンサートホール
シューマン:アラベスク/ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番/ドビュッシー:映像 第2集/プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番
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~難儀な「シモン」の滅多に聴けぬ超名演~
ムーティの「シモン」は期待通りの超名演。特にオーケストラのコクのある音色と場面に即した表現は、日本では滅多に聴けぬもの。以前もそうだったが、この難儀なオペラの場合、アカデミーで積み重ねた成果はことのほか大きく、今回は歌手陣も粒揃いだった。ともかく〝ムーティのみ表出可能なイタリア・オペラの真髄〟を実感した公演。力業師のイメージがあったブロンフマンの繊細でニュアンスに富んだピアノも、実に印象的だった。
来月のイチオシ
◆◆11月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈NHK交響楽団 第2049回定期公演 Cプログラム〉
11月14日(金)、15日(土)NHKホール
シャルル・デュトワ(指揮)/二期会合唱団
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ、組曲「クープランの墓」、バレエ音楽「ダフニスとクロエ」(全曲)

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〈新国立劇場 ベルク:歌劇「ヴォツェック」新制作〉
11月15日(土)、18日(火)、20日(木)、22日(土)、24日(月・祝)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/リチャード・ジョーンズ(演出)/トーマス・ヨハネス・マイヤー(ヴォツェック)/ジョン・ダザック(鼓手長)/伊藤達人(アンドレス)/アーノルド・ベズイエン(大尉)/妻屋秀和(医者)/ジェニファー・ディヴィス(マリー)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM 少年合唱団/東京都交響楽団
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~8年振り、魔術師デュトワのN響定期~
ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、コンセルトヘボウ管の世界三大オケをはじめ注目の公演が目白押しの11月だが、ここは8年振りとなるデュトワのN響定期登場に期待。メシアンと「惑星」が並んだ別プロも楽しみだが、〝魔術師〟の本領がフルに発揮されるラヴェル作品の艶やかな色彩感とデリケートな肌触りをぜひ体感したい。大野の持ち味にピッタリの「ヴォツェック」では、鋭利な分析力に根ざした〝凄み〟を堪能できそうだ。
先月のピカイチ
◆◆9月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演〉
9月13日(土)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/ミケーレ・ペルトゥージ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
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〈ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
9月24日(水)サントリーホール
チョン・ミョンフン(指揮)/藤田真央(ピアノ)
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番/ブラームス:交響曲第4番
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~昨年の「アッティラ」以上の成果を残した「シモン」~
ムーティが若い世代の音楽家にヴェルディの真髄を伝授する企画も年々水準を上げ、今年の「シモン」は昨年の「アッティラ」を上回る成果を収めた。1975年に初来日してから50年。ムーティが日本に記した足跡は計り知れない。かつて彼と来日したスカラ座フィルは名誉指揮者チョンと日本公演を行い、来年12月のスカラ座音楽監督就任への期待を膨らませる名演奏を繰り広げた。藤田真央の進境も著しい。
来月のイチオシ
◆◆11月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
11月19日(水)サントリーホール ※完売
ヤナーチェク:ラシュスコ舞曲/バルトーク:「中国の不思議な役人」組曲/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年改訂版)

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〈ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 日本公演 プログラムB〉
11月15日(土)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール/16日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール/18日(火)サントリーホール
クラウス・マケラ(指揮)
R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」/マーラー:交響曲第5番
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~ペトレンコ&BPHの持ち味際立つプログラムB~
ペトレンコとの2度目の日本ツアーに臨むベルリン・フィル。中でもヤナーチェク、バルトーク、ストラヴィンスキーを並べたプログラムでは指揮者の音楽性、オーケストラの演奏能力のすべてを発揮する期待が募る。コンセルトヘボウは次期首席指揮者のマケラと最初の日本。こちらもA・カントロフ(ピアノ)とのブラームス以外はバルトーク(Aプロ)、R・シュトラウス、マーラーと近代寄りの作品で今後の展開を占う。
先月のピカイチ
◆◆9月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演〉
9月15日(月・祝)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/ミケーレ・ペルトゥージ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
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〈日本フィルハーモニー交響楽団 第773回東京定期演奏会〉
9月12日(金)サントリーホール
カーチュン・ウォン(指揮)/田野倉雅秋(ソロ・コンサートマスター)
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
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~ムーティ、ヴェルディの奥義を国境・世代を超えて繋ぐ~
ムーティの熱血指導を受けた東京春祭オケは、この公演で唯一無二のヴェルディ・サウンドを私たちに届けてくれた。ペルトゥージ他名だたる歌手の響宴、民衆たちの声を見事に表現した合唱、音だけで舞台が見えてくる。これがヴェルディ・オペラの神髄だと改めて教えられ、最期まで愛と平和を望むシモンの声は、ムーティの思いとして深く胸に刻まれた。
カーチュン・ウォンの凄まじい統率力を発揮した日フィルのマーラーも圧巻だった。
来月のイチオシ
◆◆11月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈新国立劇場 ベルク:歌劇「ヴォツェック」新制作〉
11月15日(土)、18日(火)、20日(木)、22日(土)、24日(月・祝)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/リチャード・ジョーンズ(演出)/トーマス・ヨハネス・マイヤー(ヴォツェック)/ジョン・ダザック(鼓手長)/伊藤達人(アンドレス)/アーノルド・ベズイエン(大尉)/妻屋秀和(医者)/ジェニファー・ディヴィス(マリー)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM 少年合唱団/東京都交響楽団

次点
〈ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 日本公演 プログラムA〉
11月11日(火)京都コンサートホール/13日(木)高崎芸術劇場 大劇場/17日(月) サントリーホール
クラウス・マケラ(指揮)/アレクサンドル・カントロフ(ピアノ)
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番/バルトーク:管弦楽のための協奏曲
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~20世紀オペラの金字塔「ヴォツェック」、初演100年目の新制作~
初演から100年にあたるヴォツェック、芸術監督の大野和士が注力する20世紀オペラの金字塔とも言える作品が名匠リチャード・ジョーンズによって生まれ変わる。09年の水を張った印象的な舞台で主役を務めたトーマス・ヨハネス・マイヤーが再び登場する。
来日オケ・ラッシュの中、これまでソロでしか聴いてこなかったピアノのカントロフがマケラ率いるコンセルトヘボウとブラームスのピアノ協奏曲を演奏する公演に注目したい。
先月のピカイチ
◆◆9月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演〉
9月15日(月・祝)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/ミケーレ・ペルトゥージ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
次点 同率2公演
〈読売日本交響楽団 第651回定期演奏会〉
9月25日(木)サントリーホール
ケント・ナガノ(指揮)
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
〈東京交響楽団 第734回定期演奏会〉
9月27日(土)サントリーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/カタリナ・コンラディ(ソプラノ)/アンナ・ルチア・リヒター(メゾ・ソプラノ)/ヴェルナー・ギューラ(テノール、エヴァンゲリスト)/ミヒャエル・ナジ(バリトン、イエス)/加藤宏隆(バス)ほか/東響コーラス/東京少年少女合唱隊/東京交響楽団
J・S・バッハ:マタイ受難曲
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~ステージが混然一体となった圧巻の「シモン・ボッカネグラ」~
ムーティによる「シモン・ボッカネグラ」は歌手、合唱、オケが混然一体となって繰り広げた圧巻の演奏(リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京2025 | CLASSICNAVI)。次点は甲乙つけ難く同率で2公演を挙げた。ナガノ&読響の斬新なマーラーの詳細は速リポの拙稿(ケント・ナガノ指揮 読売日本交響楽団 第651回定期演奏会 | CLASSICNAVI)をご覧いただきたい。ノット&東響のマタイ受難曲は現代オケによるバッハ演奏の新たな可能性を示した意義深いものだった。
来月のイチオシ
◆◆11月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈新国立劇場 ベルク:歌劇「ヴォツェック」新制作〉
11月15日(土)、18日(火)、20日(木)、22日(土)、24日(月・祝)新国立劇場オペラパレス
大野和士(指揮)/リチャード・ジョーンズ(演出)/トーマス・ヨハネス・マイヤー(ヴォツェック)/ジョン・ダザック(鼓手長)/伊藤達人(アンドレス)/アーノルド・ベズイエン(大尉)/妻屋秀和(医者)/ジェニファー・ディヴィス(マリー)他/新国立劇場合唱団/TOKYO FM 少年合唱団/東京都交響楽団
次点
〈東京交響楽団 第736回定期演奏会/名曲全集 第212回〉
11月22日(土)サントリーホール/23日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/宮田まゆみ(笙)
武満徹:セレモニアル/マーラー:交響曲第9番
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~必見・必聴! 新国立劇場の「ヴォツェック」~
11月はティーレマン&WPH、ペトレンコ&BPH、マケラ&RCO以外からチョイス。イチオシは新国立劇場によるベルクの「ヴォツェック」新制作。日本では上演機会が少ない難作だが、英国オペラ界で一時代を築いたリチャード・ジョーンズの演出、大野和士指揮でマイヤーら実力歌手を揃えたステージは必見・必聴。名演連発のノットと東響、音楽監督としての最後の定期に選んだのはマーラー交響曲第9番。歴史的名演が生まれる可能性大である。