夏の音楽祭シーズンが到来、国内各地、そして海外でも猛暑に負けない熱演が繰り広げられている。今月は7月開催のステージからピカイチを、9月に開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただく。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈東京交響楽団 第732回定期演奏会〉
7月21日(月・祝)サントリーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/ガリーナ・チェプラコワ(ソプラノ)/ロバート・ルイス(テノール)/マティアス・ウィンクラー(バリトン)/東響コーラス/東京少年少女合唱隊
ブリテン:戦争レクイエム
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〈東京都交響楽団 プロムナードコンサートNo.413〉
7月19日(土)サントリーホール
アラン・ギルバート(指揮)
ブラームス:交響曲第1番、第2番
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~意義深き「戦争レクイエム」熱演~
第2次世界大戦終結から80年の今夏の上演という意義に加え、同国人の作曲家に寄せるノットの愛情と共感にあふれた指揮、東京響と独唱者たちおよび暗譜で歌った東響コーラスの熱演など、感動的な要素の多い「戦争レクイエム」を第一に挙げる。一方、円熟味を増したアラン・ギルバートの、気心知れた都響とのブラームスも予想以上の素晴らしさだ。陰翳と熱狂、随所に折り込まれた微細なニュアンス、人間味豊かなあたたかさ——。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演〉
9月13日(土)、15日(月・祝)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/イルダール・アブドラザコフ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)

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〈上岡敏之×東京二期会プロジェクトⅡ Tokyo Opera Days 2025〉
9月11日(木)、13日(土)、14日(日)、15日(月・祝)東京文化会館大ホール
上岡敏之(指揮)/深作健太(演出)/河野鉄平・斉木健詞(オランダ人)/中江万柚子・鈴木麻里子(ゼンタ)/山下浩司・志村文彦(ダーラント)他/二期会合唱団/読売日本交響楽団
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」新制作
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~唯一無二 ムーティのイタリア・オペラ~
あの超弩級の名演「マクベス」を思い出すまでもなく、今の大リッカルド・ムーティの指揮するオペラは、どれも唯一無二のものだ。たとえ演奏会形式上演であろうと、なんでも聴いてみたい。「さまよえるオランダ人」は、上岡敏之が日本で指揮するワーグナーのオペラ全曲の、何とこれが最初。相性のいい読響と組んでの演奏だから、きっと彼の本領が発揮されるだろう。深作の演出は「自然との対決」を底流にしたストレート路線と聞く。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈スイス・ロマンド管弦楽団 日本公演〉
7月8日(火)ミューザ川崎シンフォニーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/上野通明(チェロ)
オネゲル:交響的運動第2番「ラグビー」/ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番/ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」(1911年版)

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〈東京交響楽団 川崎定期演奏会 第101回〉
7月19日(土)ミューザ川崎シンフォニーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/ガリーナ・チェプラコワ(ソプラノ)/ロバート・ルイス(テノール)/マティアス・ウィンクラー(バリトン)/東響コーラス/東京少年少女合唱隊
ブリテン:戦争レクイエム
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~ジョナサン・ノット&手兵2楽団との快演~
7月はジョナサン・ノットが手兵2団体との阿吽の呼吸を発揮した快演が続いた。上記スイス・ロマンド管の公演は動的な〝弾み〟に魅せられたし、サントリーホール公演の「春の祭典」を含めて、珍しく〝色・艶〟のあるモダン音楽に感心させられた。東響との「戦争レクイエム」は、この深刻作を柔らかくしなやかに表現した稀有の演奏。同じくサマーミューザ初日の「ニーベルングの指環」ハイライトの濃密な表現も素晴らしかった。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演〉
9月13日(土)、15日(月・祝)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/イルダール・アブドラザコフ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
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〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第381回定期演奏会〉
9月6日(土)東京オペラシティ コンサートホール
高関健(指揮)/妻屋秀和(フィリッポ2世)/小原啓楼(ドン・カルロ)/上江隼人(ロドリーゴ)/大塚博章(宗教裁判長)/木下美穂子(エリザベッタ)/加藤のぞみ(エボリ公女)他/東京シティ・フィル・コーア
ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」(演奏会形式)
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~生ける世界遺産級 ムーティによるヴェルディのオペラ~
イタリア・オペラ・アカデミーにおけるムーティ指揮のヴェルディ・オペラは、ここ数年の中でも最上の聴きものだ。これまさに生ける世界遺産。現在かくも密度が濃くて躍動感に富んだイタリア・オペラを堪能できる機会は他にない。今回はやや地味(?)な「シモン・ボッカネグラ」がいかに表現されるか? 実に楽しみだ。高関&シティ・フィルの大作も毎回必聴。以前の「トスカ」やヴェルディ「レクイエム」の名演からも期待は大きい。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈東京交響楽団 第732回定期演奏会〉
7月21日(月・祝)サントリーホール
ジョナサン・ノット(指揮)/ガリーナ・チェプラコワ(ソプラノ)/ロバート・ルイス(テノール)/マティアス・ウィンクラー(バリトン)/東響コーラス/東京少年少女合唱隊
ブリテン:戦争レクイエム
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〈佐渡裕プロデュースオペラ2025 ワーグナー「さまよえるオランダ人」〉
7月20日(日)兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
佐渡裕(指揮)/ミヒャエル・テンメ(演出)/髙田智宏(オランダ人)/妻屋秀和(ダーラント)/田崎尚美(ゼンタ)/宮里直樹(エリック)/塩崎めぐみ(マリー)/渡辺康(舵手)他/ひょうごプロデュースオペラ合唱団/兵庫芸術文化センター管弦楽団
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~際立ったジョナサン・ノットの活躍ぶり~
ジョナサン・ノット大活躍の1カ月。スイス・ロマンド管とのツアーに始まり、東響「戦争レクイエム」、さらにフェスタサマーミューザKAWASAKI2025開幕の東響「マゼール編曲『言葉のない指環』」に至るまで高水準の演奏を続けた中、第二次世界大戦終結80年と自身の音楽監督最終シーズンを重ねての「戦争レクイエム」の完成度、深さには胸を打たれた。兵庫では「日本人だけでここまで高水準のワーグナー上演が可能になったか」の感激を味わった。特にオランダ人の髙田智宏は初役とは思えない出来ばえ。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選
〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5 本公演ほか〉
9月13日(土)、15日(月・祝)東京音楽大学100周年記念ホール
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/イルダール・アブドラザコフ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
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〈読売日本交響楽団 第651回定期演奏会〉
9月25日(木)サントリーホール
ケント・ナガノ(指揮)
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
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~ムーティのアカデミー、若手公演にも注目~
ムーティのヴェルディを座席数800のホールで聴ける至福を2年続き、しかも「シモン・ボッカネグラ」で味わえる喜びは大きい。11日の若手公演では題名役の栗原峻希に注目。日本人で初めてナポリ・サン・カルロ劇場の研修所で学び、マリエッラ・デヴィーアの薫陶を受けて帰国。今年3月の札幌文化芸術劇場「ドン・ジョヴァンニ」題名役で鮮烈なデビューを飾った。ナガノが日本の常設楽団を指揮するのは、九州交響楽団とハンブルク・フィルの合同チャリティ演奏会を除けば、新日本フィル以来39年ぶりだ。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈バーミンガム市交響楽団 日本公演〉
7月2日(水)サントリーホール
山田和樹(指揮)/イム・ユンチャン(ピアノ)
ショスタコーヴィチ:祝典序曲/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番/(ソリスト・アンコール)ショパン:ワルツ第3番/ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲「展覧会の絵」/(アンコール)ウォルトン:戴冠式行進曲「宝玉と王の杖」

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〈PMFオーケストラ東京公演〉
7月29日(火)サントリーホール
マレク・ヤノフスキ(指揮)/スティーヴン・イッサーリス(チェロ)/PMFオーケストラ
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲/シューマン:チェロ協奏曲/シューマン:交響曲第3番「ライン」/R・シュトラウス:交響詩「死と変容」
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~山田和樹の求心力、ヤノフスキの矜持~
音楽監督の山田自身が「明るいオケ」と言うようにまばゆい響きのバーミンガム市響。ヘンリー・ウッド版の「展覧会の絵」は客席に金管がバンダで登場したり打楽器が活躍し、おなじみのアンコール曲まで山田の求心力が大いに発揮された。イム・ユンチャンのピアノの深化、オケとの共創も光った。ヤノフスキがPMFの若手音楽家たちを振ったワーグナーとシューマンは作品の神髄に迫る演奏。名匠の矜持を彼らがしかと受け止めていた。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選
〈上岡敏之×東京二期会プロジェクトⅡ Tokyo Opera Days 2025〉
9月11日(木)、13日(土)、14日(日)、15日(月・祝)東京文化会館大ホール
上岡敏之(指揮)/深作健太(演出)/河野鉄平・斉木健詞(オランダ人)/中江万柚子・鈴木麻里子(ゼンタ)/山下浩司・志村文彦(ダーラント)他/二期会合唱団/読売日本交響楽団
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」新制作

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〈リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミーin東京 vol.5〉
9月2日(火)東京音楽大学TCMホール=リッカルド・ムーティによる「シモン・ボッカネグラ」作品解説
9月11日(木)東京音楽大学 100周年記念ホール=リッカルド・ムーティpresents 若い音楽家による「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
9月13日(土)、15日(月・祝)東京音楽大学100周年記念ホール=本公演
リッカルド・ムーティ(指揮)/ジョルジェ・ペテアン(シモン・ボッカネグラ)/イルダール・アブドラザコフ(フィエスコ)/イヴォナ・ソボトカ(アメーリア)/ピエロ・プレッティ(ガブリエーレ・アドルノ)他/東京オペラシンガーズ/東京春祭オーケストラ
ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(演奏会形式)
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~上岡×深作×読響 注目のワーグナー~
読響とは親密な関係を築いてきた上岡敏之が、オペラで共演するのは08年の「魔笛」以来だ。ワーグナーの「ローエングリン」他数々の舞台を二期会で披露してきた気鋭の演出家、深作健太が彼らと創る「さまよえるオランダ人」は必見。
ムーティのイタリア・オペラ・アカデミーは、ヴェルディの「シモン・ボッカネグラ」を取り上げる。今年も濃密なリハーサルを通じて若い演奏家たちと聴衆に大いなる発見と歓びを与えてくれるだろう。
先月のピカイチ
◆◆7月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ヴァルトビューネ河口湖2025〉
7月5日(土)河口湖ステラシアター
グスターボ・ドゥダメル(指揮)
カブリエラ・オルティス:カモシカ/デューク・エリントン:「スリー・ブラック・キングス」より〝マーティン・ルーサー・キング〟/アルトゥーロ・マルケス:ダンソン第2番、第8番/レナード・バーンスタイン:「ウエスト・サイト・ストーリー」より〝シンフォニックダンス〟他

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【読売日本交響楽団 第279回日曜マチネーシリーズ】
7月20日(日)東京オペラシティ コンサートホール
デリヤナ・ラザロヴァ(指揮)/アルブレヒト・マイヤー(オーボエ)
ドブリンカ・タバコヴァ:オルフェウスの彗星/モーツァルト:オーボエ協奏曲ヘ長調K293(G・オダーマット補筆版)/リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」
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~心躍る演奏を満喫 ベルリン・フィル初の海外ヴァルトビューネ~
ベルリン・フィル初夏の名物コンサートの初の海外公演。ドゥダメルのキャラクターと野外というリラックスした雰囲気も相まってBPHの高い技術力に裏打ちされた豊かな表現力が全開になり、心躍る演奏を満喫できた。詳細は速リポの拙稿(グスターボ・ドゥダメル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ヴァルトビューネ河口湖2025 | CLASSICNAVI)をご覧ください。次点のラザロヴァ指揮、読響もコンマスの日下紗矢子、ソロ・チェロの遠藤真理らの妙技にけん引された濃密なアンサンブルによって作品世界に強く引き込まれる秀演となった。
来月のイチオシ
◆◆9月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)
〈バイエルン州立管弦楽団 日本公演〉※主催者表記・国立
9月26日(金)サントリーホール
ウラディーミル・ユロフスキ(指揮)/ブルース・リウ(ピアノ)
モーツァルト:交響曲第32番、ピアノ協奏曲第23番/リヒャルト・ シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」、組曲「ばらの騎士」

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〈ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団 日本公演〉
9月22日(月)サントリーホール
チョン・ミョンフン(指揮)/藤田真央(ピアノ)
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲/ラフマニノフ:ピアノ協協奏曲第2番/チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
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~名門バイエルン州立管×鬼才ユロフスキ~
バイエルン州立(主催者表記・国立)管弦楽団は同州立歌劇場の専属オケでカルロス・クライバーとの密接な関係でも知られた名門。当時のメンバーはもう残っていないだろうが、そのDNAは受け継がれているはず。そんなオケから「ばらの騎士」で鬼才ユロフスキがどんな音楽を引き出すのか興味深い。27年にスカラ座音楽監督に就任するチョン・ミョンフンがスカラ・フィルを率いての公演は両者の今後を占う上でも注目される。