N響定期、最高齢指揮者ブロムシュテットの2年ぶりみずみずしいタクト……24年10月

2年ぶりの来日で10月のABCすべての定期を振ったブロムシュテット 写真提供:NHK交響楽団
2年ぶりの来日で10月のABCすべての定期を振ったブロムシュテット 写真提供:NHK交響楽団

長い残暑がようやく落ち着いたと思ったら、街ではクリスマス・ツリーが飾られ始めた。2024年も2カ月を切ったが、音楽シーンは依然として熱いままだ。今月は10月のステージからピカイチを、12月開催公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただいた。

先月のピカイチ

◆◆24年10月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈新国立劇場 ベッリーニ:「夢遊病の女」〉

10月9日(水)新国立劇場オペラパレス

マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/バルバラ・リュック(演出)/クラウディア・ムスキオ(アミーナ)/妻屋秀和(ロドルフォ伯爵)/谷口睦美(テレーザ)/アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

新国立劇場では初の上演となったベルカント・オペラ「夢遊病の女」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場
新国立劇場では初の上演となったベルカント・オペラ「夢遊病の女」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

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〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第373回定期演奏会〉

10月3日(木)東京オペラシティ コンサートホール

高関健(指揮)

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」

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~暗い「夢遊病の女」、現代のSNS被害を象徴~

ピカイチは大野和士芸術監督率いる新国立劇場オペラ部門の意欲的な企画。ベニーニの見事な指揮に加え、わずかな疑いだけで婚約を破棄するような恋人や、村八分的な雰囲気を示す村人たちに囲まれる夢遊病に罹った女性の孤独感など、現代のSNS被害にも共通する理不尽さを描き出したリュックの暗い演出が面白い。高関健とシティ・フィルの「わが祖国」は壮大で流れの良い演奏が印象的で、このオケの最近の好調さを示した快演。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京交響楽団 特別演奏会 R・シュトラウス「ばらの騎士」演奏会形式〉

12月13日(金)サントリーホール/15日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/演出監修:トーマス・アレン/ミア・パーション(元帥夫人)/カトリオーナ・モリソン(オクタヴィアン)/アルベルト・ペーゼンドルファー(オックス男爵)/エルザ・ブノワ(ゾフィー)/マルクス・アイヒェ(ファーニナル)他/二期会合唱団/東京交響楽団

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〈ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 来日公演〉

12月12日(木)東京オペラシティ コンサートホール、他

パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)/マリア・ドゥエニャス(ヴァイオリン)

モーツァルト:「ドン・ジョヴァンニ」序曲/ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲/シューベルト:交響曲第7番「未完成」/モーツァルト:交響曲第31番「パリ」

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~ノットのR・シュトラウス・シリーズ、完結~

人気抜群のノットと東京響のR・シュトラウス・オペラのシリーズは、これでひとまず千秋楽のようだ。今回の「ばらの騎士」は甘美な「シュトラウス節」満載の作品で、ノットの芸風が楽しめよう。ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルの公演は各地で計8回あるが、東京での3回の公演の中では、筆者としてはこのプログラムに興味を持っている。他にも、大野和士と東京都響のショスタコーヴィチの「8番」を挙げたいところだったが、残念ながら彼が健康上の理由で降板してしまったので…

先月のピカイチ

◆◆24年10月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈BCJ第164回定期演奏会 バッハからメンデルスゾーン=バルトルディへ〉

10月31日(木)東京オペラシティ コンサートホール

鈴木雅明(指揮)/ジョナ・マルティネス、澤江衣里(ソプラノ)/ベンヤミン・ブルンス(テノール)/小池優介(バス)/バッハ・コレギウム・ジャパン(管弦楽、合唱)

J・S・バッハ:カンタータ第80番「われらが神こそ、堅き砦」(W・F・バッハ版)/メンデルスゾーン:交響曲第2番「讃歌」

「マタイ受難曲」の蘇演のみならずゆかりの深いバッハとメンデルスゾーンの作品を並べたバッハ・コレギウム・ジャパンの定期 (C) K. Miura
「マタイ受難曲」の蘇演のみならずゆかりの深いバッハとメンデルスゾーンの作品を並べたバッハ・コレギウム・ジャパンの定期 (C) K. Miura

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〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第373回定期演奏会〉

10月3日(木)東京オペラシティ コンサートホール

高関健(指揮)

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」

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~ならではの解釈、作品の真価を浮き彫りに~

BCJ(バッハ・コレギウム・ジャパン)のメンデルスゾーン「讃歌」は、この曲を交響曲ではなくオラトリオとして演奏した、説得力抜群の名演。前半の管弦楽部分をシンフォニアとして序曲風に扱い、後半の声楽部分をメインとして起伏に富んだ音楽を展開した全体の構成、ピリオド楽器の響き、ハイクオリティの管弦楽&声楽が相まって、曲の真価を初めて実感させられた。高関&シティ・フィルの「わが祖国」は、チェコ・フィルの実演譜に則った緻密で感興豊かな快演。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈イザベル・ファウスト モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 全曲演奏会〉

12月10日(火)、11日(水)東京オペラシティ コンサートホール

イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)/ジョヴァンニ・アントニーニ(指揮)/イル・ジャルディーノ・アルモニコ

(10日)モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1、3、4番/同:セレナーデ第13番 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

(11日)モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第2、5番「トルコ風」/グルック:バレエ音楽「ドン・ファン」より/モーツァルト:ロンド ハ長調

ファウスト(右)はアントニーニ&イル・ジャルディーノ・アルモニコとモーツァルトの協奏曲ツィクルスに挑む (C) Felix Broede
ファウスト(右)はアントニーニ&イル・ジャルディーノ・アルモニコとモーツァルトの協奏曲ツィクルスに挑む (C) Felix Broede

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〈パトリツィア・コパチンスカヤ&カメラータ・ベルン〉

12月7日(土)、9日(月)トッパンホール、他

パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)/カメラータ・ベルン

(7日)シューベルト(コパチンスカヤによるヴァイオリンと弦楽オーケストラ編):弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」/ネルミガー(ヴィアンチコ編):死の舞踏/作曲者不詳(コパチンスカヤ編):ビザンティン聖歌 詩篇140篇/クルターク:「カフカ断章」より「休みなく」他

(9日)コダーイ(ヴェレシュ編):マロシュセーク舞曲/ガブリエル・ブルナー:弦楽アンサンブルのための情景II/メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲、他

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~ファウストとコパチンスカヤ エキサイティングな名手の競演~

ドイツ・カンマーフィル、ノット&東響の「ばらの騎士」、井上道義のラスト公演その他、年末ながらも注目公演は多いが、ここは同格の意味で二人のヴァイオリン奏者の競演を挙げた。かたやストレートでピュアな正統派、かたや大胆不敵な異才、かたや古典派の協奏曲、かたや普段まず見ない刺激的なプログラムと、全てが対照的な名手の聴き比べは、贅沢かつエキサイティングだ。個性的な室内オーケストラとの共演も興味を倍加させる。

先月のピカイチ

◆◆24年10月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 第2020回定期公演Aプログラム〉

10月20日(日)NHKホール

ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)

オネゲル:交響曲第3番「典礼風」/ブラームス:交響曲第4番

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〈マリオ・ブルネロ(チェロ)&川口成彦(フォルテピアノ)デュオ・リサイタル〉

10月24日(木)紀尾井ホール

ベートーヴェン:「魔笛」の「恋人か女房か」の主題による12の変奏曲/メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ第1番/ファニー・メンデルスゾーン:カプリッチョ/ショパン:チェロ・ソナタ

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~オネゲル「典礼風」に見たブロムシュテットの思念~

97歳のブロムシュテットが2年ぶりに来日、N響定期3シリーズ6公演すべてを振りおおせたこと自体が奇跡だった。北欧音楽もブラームスもシューベルトも良かったが、オネゲルの交響曲第3番「典礼風」には第二次世界大戦終結当時18歳の青年だったマエストロの強い怒り、祈りが凝縮されて圧巻だった。ブルネロと川口の初共演は至高の愉悦に満ちて大成功、今後も共演を重ねてほしい。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈東京交響楽団 特別演奏会 R・シュトラウス「ばらの騎士」演奏会形式〉

12月15日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/演出監修:トーマス・アレン/ミア・パーション(元帥夫人)/カトリオーナ・モリソン(オクタヴィアン)/アルベルト・ペーゼンドルファー(オックス男爵)/エルザ・ブノワ(ゾフィー)/マルクス・アイヒェ(ファーニナル)他/二期会合唱団/東京交響楽団

話題を呼んだ「サロメ」「エレクトラ」に続いて注目されるノット&東響の「ばらの騎士」=写真は昨年の「エレクトラ」より (C)N.Ikegami / TSO
話題を呼んだ「サロメ」「エレクトラ」に続いて注目されるノット&東響の「ばらの騎士」=写真は昨年の「エレクトラ」より (C)N.Ikegami / TSO

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〈神戸文化ホール開館50周年記念 ヴェルディ「ファルスタッフ」〉

12月21日(土)神戸文化ホール 大ホール

佐藤正浩(指揮)/岩田達宗(演出)/黒田博(ファルスタッフ)/老田裕子(アリーチェ)/西尾岳史(フォード)/内藤里美(ナンネッタ)/小堀勇介(フェントン)他/神戸市混声合唱団/神戸市室内管弦楽団

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~コンビの蓄積に募る期待 東西オペラ2選 ~

2026年3月末に退任を控えるノットのシュトラウス第3弾、「ばらの騎士」はやはりフランチャイズの川崎で堪能したい。佐藤正浩&岩田達宗コンビ四半世紀の蓄積を生かし、元々は関西人の黒田博が「人生みな喜劇」の主人公を演じる「ファルスタッフ」への期待も募る。12日サントリーホールの藤田真央(ピアノ)、ショパンとスクリャービン、矢代秋雄の「24の前奏曲」による「72プレリューズ」は別格の推し。

先月のピカイチ

◆◆24年10月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈新国立劇場 ベッリーニ:「夢遊病の女」〉

10月6日(日)新国立劇場オペラパレス

マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/バルバラ・リュック(演出)/クラウディア・ムスキオ(アミーナ)/妻屋秀和(ロドルフォ伯爵)/谷口睦美(テレーザ)/アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

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〈NHK音楽祭2024 デュトワ&NHK交響楽団〉

10月30日(水)NHKホール

シャルル・デュトワ(指揮)/ニコライ・ルガンスキー(ピアノ)

ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」/(ソリスト・アンコール)ラフマニノフ:リラの花

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~名匠ベニーニ、デュトワが稀代の名演~

「夢遊病の女」は、名匠ベニーニの指揮とムスキオ、シラクーザ、妻屋、谷口とキャラクターを見事に歌い分ける声の響宴、ダンサーが主人公の心象風景を、セットがストーリー展開を視覚化、演出家バルバラ・リュックが提示する独自の結末に至るまでオペラの醍醐味が凝縮されていた。
7年ぶりにN響を指揮したデュトワ、エレガントな指揮でNHKホールが稀に見る芳醇かつゴージャスな響きに。ルガンスキーのラフマニノフも圧巻の演奏。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈ジョヴァンニ・アントニーニ指揮 イル・ジャルディーノ・アルモニコ〉

12月13日(金)トッパンホール

モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調/ハイドン:交響曲52番/A・ペルト:主よ、平和を与えたまえ/シャイト:4世の悲しみのパヴァーヌ イ短調/ハイドン:交響曲第44番「悲しみ」

手兵イル・ジャルディーノ・アルモニコを率いるアントニーニ(中央)のハイドン解釈が注目される (C)Lukasz Rajchert
手兵イル・ジャルディーノ・アルモニコを率いるアントニーニ(中央)のハイドン解釈が注目される (C)Lukasz Rajchert

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〈東京都交響楽団 第1012回定期演奏会B、第1013回定期演奏会A〉

12月4日(水)サントリーホール/12月5日(木)東京文化会館

ロバート・トレヴィーノ(指揮)/伊東裕(チェロ)

ハイドン:チェロ協奏曲第1番/ショスタコーヴィチ:交響曲第8番

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~世界最高峰の古楽アンサンブルで聴くハイドン~

12月のトッパンはコパチンスカヤ&カメラータ・ベルンとここであげたアントニーニ&アルモニコの垂涎の企画が並ぶ。11月2日ベルリン・フィルでアントニーニが指揮したハイドンの44番を配信で聴き、ハイドン再発見の好機と見た。都響では首席チェロ奏者の伊東裕が初めて定期演奏会のソリストとしてハイドンの協奏曲を披露する。指揮は大野和士からロバート・トレヴィーノに変更となったが、新世代の熱いタクトにも注目したい。

先月のピカイチ

◆◆24年10月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈NHK交響楽団 第2021回定期公演Cプログラム〉

10月25日(金)NHKホール

ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)

シューベルト:交響曲第7番「未完成」/同:第8番「ザ・グレート」

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〈東京二期会 R・シュトラウス:「影のない女」新制作〉

10月24日(木)東京文化会館

アレホ・ペレス(指揮)/ペーター・コンヴィチュニー(演出)/伊藤達人(皇帝)/冨平安希子(皇后)/大沼徹(バラク)/板波利加(バラクの妻)他/二期会合唱団/東京交響楽団

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~N響定期 作品に注がれるブロムシュテットの情熱~

ブロムシュテットは期待通りであった。演奏の詳細は拙稿(2年ぶり N響10月定期へ来演したヘルベルト・ブロムシュテット | CLASSICNAVI)をご覧いただきたい。97歳になってもなお、若々しい感覚を失わずに、進化と探究を続け作品の本質に迫っていこうとの情熱が音楽に反映されており心打たれた。コンヴィチュニーの「影のない女」はSNS上で論争を巻き起こしたが、盛大なブーイングも含めて彼の狙い通り。あざといまでの発想と手腕には感心したが、読み替え演出も行きつくところまで到達した、との感はなきにしもあらず。

来月のイチオシ

◆◆12月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈東京交響楽団特別演奏会「第九」2024〉

12月28日(土)/29日(日)サントリーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/安川みく(ソプラノ)/杉山由紀(メゾ・ソプラノ)/宮里直樹(テノール)/甲斐栄次郎(バリトン)/東響コーラス/東京交響楽団

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付き」

恒例行事ながら進化し続けるノット&東響の「第9」=昨年の公演より (C)T.Tairadate / TSO
恒例行事ながら進化し続けるノット&東響の「第9」=昨年の公演より (C)T.Tairadate / TSO

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〈第22回ベートーヴェンは凄い! 全交響曲連続演奏会〉

12月31日(火)13:00~23:20(予定)、東京文化会館

小林研一郎(指揮)/小川栞奈(ソプラノ)/山下牧子(アルト)/笛田博昭(テノール)/青山貴(バリトン)/ベートーヴェン全交響曲連続演奏会特別合唱団/武蔵野合唱団/岩城宏之メモリアル・オーケストラ(コンサートマスター:篠崎史紀)/三枝成彰(企画・お話)

ベートーヴェン:交響曲第1~9番

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~年毎に深化を繰り返すノット&東響の「第9」~

2014年から音楽監督を務めてきたノットは東響と多くの名演を残してきた。年の瀬の第9も毎年、進化を繰り返して理想のスタイルを追求。ノットの任期は26年3月までで、監督として年末第9に臨むのもあと2回。集大成に向けて今年はどんな演奏になるのか、7日の定期で取り上げる第5番とともに注目。大みそか恒例のベートーヴェン・ツィクルスは3年ぶりにコバケンが指揮台に立つ。84歳になった炎のマエストロ、熱演の先にある円熟の境地を体感できそうだ。

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