ラスト公演のプラッソン、今夏首席客演指揮者デビューの沖澤、それぞれの熱演……24年8月

フランス音楽の白眉、プラッソンによる最後の来日公演 写真提供:公益財団法人東京二期会/撮影:堀衛
フランス音楽の白眉、プラッソンによる最後の来日公演 写真提供:公益財団法人東京二期会/撮影:堀衛

今年の夏後半は台風が相次いで襲来するなどして不順な天候が続いたが、そんな空模様を吹き飛ばすような熱演、名演が各地で繰り広げられた。そこで今回は8月のステージからピカイチを、10月に開催予定の公演からイチオシを選者の皆さんに紹介していただきます。

先月のピカイチ

◆◆24年8月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈フェスタミューザ KAWASAKI2024 ノット&新日本フィル〉

8月2日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/新日本フィルハーモニー交響楽団

マーラー:交響曲第7番「夜の歌」

井上道義の降板により初共演を果たしたノットと新日本フィル (C)平舘平
井上道義の降板により初共演を果たしたノットと新日本フィル (C)平舘平

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〈京都市交響楽団 第692回定期演奏会〉

8月24日(土)京都コンサートホール

広上淳一(指揮)/藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)/京都市交響楽団

マーラー:交響曲第3番

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~ふたつのマーラー ナマ演奏のスリル~

体調不良で降板した井上道義に代わり、急遽新日本フィルの指揮台に立った東京響音楽監督のジョナサン・ノット。初顔合わせの緊張感ゆえか、危機を乗り越えんとする気迫ゆえか、「夜の歌」は火花を散らす激演となった。こういう演奏に出会う機会はめったにない。一方の広上&京響のマーラーでは、京響の充実したアンサンブルと、それを制御する広上の巧さが相まって、堂々たる風格と気品にあふれる真摯な快演が繰り広げられた。

来月のイチオシ

◆◆10月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈東京二期会 R・シュトラウス:「影のない女」新制作〉

10月24日(木)、25日(金)、26日(土)、27日(日)東京文化会館大ホール

アレホ・ペレス(指揮)/ペーター・コンヴィチュニー(演出)/伊藤達人・樋口達哉(皇帝)/冨平安希子・渡邊仁美(皇后)/藤井麻美・橋爪ゆか(乳母)他/二期会合唱団/東京交響楽団

「影のない女」で演出を務めるコンヴィチュニー (C)Werner Kmetitsch
「影のない女」で演出を務めるコンヴィチュニー (C)Werner Kmetitsch

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〈新国立劇場 ベッリーニ:「夢遊病の女」新制作〉

10月3日(木)、6日(日)、9日(水)、12日(土)、14日(月・祝)新国立劇場オペラパレス

マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/バルバラ・リュック(演出)/クラウディア・ムスキオ(アミーナ)、妻屋秀和(ロドルフォ伯爵)/アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

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~ふたりの女性 「影のない女」と「夢遊病の女」~

「影」を持たぬことから起こる不幸に苦悩する霊界の王の娘たる皇后。夢遊病のため恋人から誤解され悩む村娘アミーナ。前者は壮大で超自然的な、後者は人間的な物語で、音楽の性格も正反対だが、それぞれのドラマが展開され、最後は幸福な結末が訪れる。ただし「影のない女」は、お騒がせ演出家としても有名な鬼才P・コンヴィチュニーの演出だから、ストーリー展開も何がどうなるかわからない。それを楽しみに、覚悟して上演に臨みたい。

先月のピカイチ

◆◆24年8月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈ミシェル・プラッソン 日本ラストコンサート〉

8月13日(火) 東京オペラシティ コンサートホール

ミシェル・プラッソン(指揮)/大村博美(ソプラノ)/小森輝彦(バリトン)/二期会合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

ラヴェル:「マ・メール・ロワ」/同:「ダフニスとクロエ」第2組曲/フォーレ:レクイエム

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〈第53回サントリー音楽賞受賞記念コンサート 濱田芳通〉

8月17日(土)サントリーホール

濱田芳通(指揮・リコーダー)/中村敬一(演出)/彌勒忠史(リナルド)/中川詩歩(アルミレーナ)/中嶋俊晴(ゴッフレード)/中山美紀(アルミーダ)/新田壮人(エウスタツィオ)/黒田祐貴(アルガンテ)他/アントネッロ(管弦楽)

ヘンデル:オペラ「リナルド」

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~プラッソン最後の来日 フランスの音再び~

プラッソン最後の日本公演は、「かつてトゥールーズ・キャピトル管とのラヴェル・ツィクルスで感嘆させられた〝フランスの音〟を、再び味わうことができた」との思いひとしお。しなやかにして繊細かつクリアな演奏はまさに至芸と言うほかなく、中でもフォーレのレクイエムの天上的な音楽は極めて感動的だった。「リナルド」は、ハイレベルのパフォーマンスによる生き生きとした運びで、バロック・オペラの魅力を再認識させた。

来月のイチオシ

◆◆10月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈NHK音楽祭2024 デュトワ&N響〉

10月30日(水)NHKホール

シャルル・デュトワ(指揮)/ニコライ・ルガンスキー(ピアノ)/NHK交響楽団

ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

デュトワ&N響による「春の祭典」は必聴 (C)Chris Lee
デュトワ&N響による「春の祭典」は必聴 (C)Chris Lee

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〈東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第373回定期演奏会〉

10月3日(木)東京オペラシティ コンサートホール

高関健(指揮)

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」

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~要注目、魔術師デュトワと精妙な高関~

二期会「影のない女」やブロムシュテット/N響をはじめ、イチオシにしようと考えた公演は他にも多々あったが、「注目してほしい」との願いを込めて上記の2公演を挙げた。NHK音楽祭のN響は、むろんデュトワとの久々共演が大注目。〝管弦楽の魔術師〟が、一段と活性化した今のN響を振ってどんな音楽を奏でるか? またシティ・フィルは、高関が勝負曲「わが祖国」をいかに精妙かつ清新に聴かせるか? 共に興味が尽きない。

先月のピカイチ

◆◆24年8月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈セイジ・オザワ松本フェスティバル2024(OMF) オーケストラ コンサートBプログラム〉

8月16日(金)キッセイ文化ホール

沖澤のどか(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)

ブラームス:交響曲第1、2番

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〈サントリーホール サマーフェスティバル2024フィリップ・マヌリ 室内楽ポートレート〉

8月27日(火)ブルーローズ

タレイア・クァルテット/今井貴子(フルート)/山澤慧(チェロ)/溝淵加奈枝(ソプラノ)/永野英樹(ピアノ)他/今井慎太郎(エレクトロニクス)/フィリップ・マヌリ(サウンド・ミキシング)

フィリップ・マヌリ:弦楽四重奏曲第4番「フラグメンティ」、「イッルド・エティアム」ソプラノとリアルタイム・エレクトロニクスのための、「ウェルプリペアド・ピアノ(第3ソナタ…)」ピアノとライブ・エレクトロニクスのための、他

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~沖澤&SKOの凄絶(せいぜつ)な代役劇に衝撃~

8月2日のミューザ川崎でジョナサン・ノットが井上道義の代わりに新日本フィルと初共演、マーラー 交響曲第7番で大成功を収めたが、2週間後に沖澤のどかがアンドリス・ネルソンスのキャンセルを受け松本で指揮したブラームスは「小澤征爾が乗り移った」としか思えない凄絶な演奏。衝撃度でさらに上を行く代役劇だった。永野英樹のピアノにコンピューターがリアルタイムで〝闘い〟を挑むなど、マヌリのライブ・エレクトロニクスのインパクトも強烈で今秋、東京文化会館のフェスティヴァル・ランタンポレルでの再来日の期待がさらに募った。

来月のイチオシ

◆◆10月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団定期演奏会Cプログラム〉

10月25日(金)、26日(土)NHKホール

ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)

シューベルト:交響曲第7番「未完成」、第8番「ザ・グレート」

昨年の来日中止を経て、2年ぶりの公演が注目されるブロムシュテット&N響 (C)Martin U.K. Lengemann
昨年の来日中止を経て、2年ぶりの公演が注目されるブロムシュテット&N響 (C)Martin U.K. Lengemann

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〈神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズVol.2 サルヴァトーレ・シャリーノ「ローエングリン」〉

10月5日(土)、6日(日)神奈川県民ホール大ホール

杉山洋一(指揮)/吉開菜央・山崎 阿弥(演出・美術)/橋本愛(エルザ)/成⽥達輝(ヴァイオリン・コンサートマスター)/笹沼樹 (チェロ)/⽥中⾹織(クラリネット)/松平敬(バリトン)他

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~ブロムシュテットで聴く至芸のシューベルト~

97歳、現在最高齢の指揮者ブロムシュテットの来日が今年こそ実現することを切に願う。A〜C全3プログラムのどれもが興味深いが、個人的にはシューベルトの「未完成」「ザ・グレート」のC定期で究極の至芸を味わいたい。神奈川の「ローエングリン」はワーグナーとは別物で、キャストはエルザ1人。しかも、女優の橋本愛が演じる。

先月のピカイチ

◆◆24年8月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈ミシェル・プラッソン 日本ラストコンサート〉

8月13日(火) 東京オペラシティ コンサートホール

ミシェル・プラッソン(指揮)/大村博美(ソプラノ)/小森輝彦(バリトン)/二期会合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

ラヴェル:「マ・メール・ロワ」/同:「ダフニスとクロエ」第2組曲/フォーレ:レクイエム

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〈第53回サントリー音楽賞受賞記念コンサート 濱田芳通〉

8月17日(土)サントリーホール

濱田芳通(指揮・リコーダー)/中村敬一(演出)/彌勒忠史(リナルド)/中川詩歩(アルミレーナ)/中嶋俊晴(ゴッフレード)/中山美紀(アルミーダ)/新田壮人(エウスタツィオ)/黒田祐貴(アルガンテ)他/アントネッロ(管弦楽)

ヘンデル:オペラ「リナルド」

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~フランス音楽の神髄を伝えた巨匠プラッソン~

90歳のプラッソンがラヴェルとフォーレの名作を、彼にしか出せない音で魅了した。詳細は速リポの拙稿にあるとおり。特に「ダフニスとクロエ」はフランス人にとって特別な曲であることが、パラリンピックの聖火が灯るシーンからも伝わった。濱田芳通とアントネッロの「リナルド」、カットは一切なくヘンデルの別作品から数曲挿入される大作となったが、最後までエンタテインメント性に貫かれ、今に生きるバロックを聴かせてくれた。

来月のイチオシ

◆◆10月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈新国立劇場 ベッリーニ:「夢遊病の女」新制作〉

10月3日(木)、6日(日)、9日(水)、12日(土)、14日(月・祝)新国立劇場オペラパレス

マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/バルバラ・リュック(演出)/クラウディア・ムスキオ(アミーナ)、妻屋秀和(ロドルフォ伯爵)/アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

次点

〈東京二期会 R・シュトラウス:「影のない女」新制作〉

10月24日(木)、25日(金)、26日(土)、27日(日)東京文化会館大ホール

アレホ・ペレス(指揮)/ペーター・コンヴィチュニー(演出)/伊藤達人・樋口達哉(皇帝)/冨平安希子・渡邊仁美(皇后)/藤井麻美・橋爪ゆか(乳母)他/二期会合唱団/東京交響楽団

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~芸術の秋を彩るオペラ「夢遊病の女」&「影のない女」~

コンサートシーズンたけなわ、注目したいのは新国立劇場、東京二期会それぞれが初めて取り上げるオペラ作品だ。「夢遊病の女」は7月に同劇場の「トスカ」でドラマティックなプッチーニを聴かせた名匠ベニーニが再び指揮台に上がることもあって、ベルカントと合唱など聴きどころ満載。「影のない女」はコロナ禍で2年越しに実現する公演、二期会とは名演を残している演出のコンヴィチュニー、指揮のアレホ・ペレス共に期待したい。

先月のピカイチ

◆◆24年8月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈セイジ・オザワ松本フェスティバル(OMF)2024 オーケストラ コンサートBプログラム〉

8月16日(金)キッセイ文化ホール

沖澤のどか(指揮)/サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)

ブラームス:交響曲第1、2番

OMFの首席客演指揮者となった沖澤が練達のオーケストラとともに熱演 (C)大窪道治/2024OMF
OMFの首席客演指揮者となった沖澤が練達のオーケストラとともに熱演 (C)大窪道治/2024OMF

次点

〈フェスタミューザ KAWASAKI2024 ノット&新日本フィル〉

8月2日(金)ミューザ川崎シンフォニーホール

ジョナサン・ノット(指揮)/新日本フィルハーモニー交響楽団

マーラー:交響曲第7番「夜の歌」

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~指揮者交代も、引き出された凄演(せいえん)2選~

OMFオケ公演Bプロは直前に降板したネルソンスの代役を務めた沖澤をSKOが火の玉のような大熱演で支え、客席が総立ちとなる驚異的な名演。詳細は当サイト内の拙稿をご覧いただきたい。次点も体調不良の井上道義に代わって指揮したノットと新日フィルのマーラー。アンサンブルの妙味を極限まで引き出した凄演で実力ある指揮者が振るとオケはここまで変わるのかと驚かされた。

来月のイチオシ

◆◆10月◆◆ 宮嶋 極(音楽ジャーナリスト)

〈NHK交響楽団定期演奏会Cプログラム〉

10月25日(金)、26日(土)NHKホール

ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)

シューベルト:交響曲第7番「未完成」、第8番「ザ・グレート」

次点

〈新国立劇場 ベッリーニ:「夢遊病の女」新制作〉

10月3日(木)、6日(日)、9日(水)、12日(土)、14日(月・祝)新国立劇場オペラパレス

マウリツィオ・ベニーニ(指揮)/バルバラ・リュック(演出)/クラウディア・ムスキオ(アミーナ)、妻屋秀和(ロドルフォ伯爵)/アントニーノ・シラグーザ(エルヴィーノ)他/新国立劇場合唱団/東京フィルハーモニー交響楽団

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~2年ぶり、ブロムシュテットによるシューベルトを推す~

97歳の現役最長老指揮者ブロムシュテットが2年ぶりに来日しN響10月定期のABC全プロを振る。3プロともお勧めだが2年前の来日で瑞々しい演奏を聴かせたシューベルトを取り上げるCプロを特に推す。次点は新国立劇場初となるベッリーニのベルカント・オペラ。7月の「トスカ」で声と演奏を巧みに融合させる手腕が光ったベニーニが指揮を務める。あの職人芸の再現も楽しみだ。

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