LSOの、個と集団の有機的な関係を示す、優れた演奏
ロンドン交響楽団(LSO)と、2024年9月から首席指揮者をつとめるアントニオ・パッパーノによる日本ツアーから。
まず初めに藤倉大の新作「Amber Alchemy」の世界初演が行われた。「琥珀の変容」を意味するタイトルを持つ約10分の作品で、蜜蜂の巣における個と集団の有機的な関係に着想を得て、そこで「価値が形を変え、循環し、新しく使えるものへと生まれ変わる」過程を、イメージとして描いたもの。交響楽団もまた個と集団の有機的な関係によって成り立つものだから、オーケストラそのものが主役ともいえるのかもしれない。蜜の透明感と黄金色の輝きを持つ琥珀を思わせる、煌めくような音色がオーケストラの各部分から響きあい、呼応していった。
演奏が終わり、ステージに招かれた作曲者が喝采を浴びた後、80人の東京混声合唱団が舞台後方のP席に入場。休憩なしでマーラーの交響曲第2番「復活」が開始される。
第1楽章冒頭のコントラバス群の印象的な刻みを、これみよがしには強調しない。ここに象徴されるように、部分を突出させるのではなく、全体のバランスのなかで、個をしっかりと存在させる。イギリス随一の高い実力を持つLSOの、個と集団の有機的な関係を示す、優れた演奏となった。もたれず、流れるように変容させながら、葬送の行列が進む。
幸福な過去を回想する第2楽章アンダンテの感傷は控えめで、むしろ儚さを感じさせる。終了後に独唱2人が入場するが拍手は起こらず、客席の静粛が維持される。独唱も合唱の女性たちも黒一色の衣装で、全体に漂う厳粛な気分が、軽々しい拍手を遠慮させたのかもしれない。
第3楽章スケルツォはグロテスクでシニカル。終楽章の大破局への予感が高まる。第4楽章のノア・ベイナルトのコントラルト独唱も過度な表情づけを抑えた、静かな祈り。
そして第5楽章。「怒りの日」の到来。大災厄の表現の劇性の高さは、さすがに豊かなオペラ経験をもつパッパーノ。メロディに流麗さを感じさせるのは、イタリアの血のなせるものか。イギリスは「ブラスの国」といわれるだけに、舞台袖のバンダも含めて、金管も木管もさすがのすばらしさ。しかしここでもパワーや輝かしさを顕示することなく、質感の統一性がつねに保たれる。それは、要所で強烈な一撃を加えるティンパニやパーカッションも同様だ。
東京混声合唱団とマリア・ベングトソンのソプラノ、大木麻理のオルガンが加わる楽章後半の壮大な高揚感もお見事。ここはイギリスの、オラトリオ演奏の伝統の力を感じた。
(山崎浩太郎)
公演データ
アントニオ・パッパーノ指揮 ロンドン交響楽団JAPAN TOUR 2026
9月28日(月)19:00サントリーホール 大ホール
指揮:アントニオ・パッパーノ
ソプラノ:マリア・ベングトソン
コントラルト:ノア・ベイナルト
合唱:東京混声合唱団
管弦楽:ロンドン交響楽団
プログラム
藤倉大:Amber Alchemy(世界初演)
マーラー:交響曲第2番 ハ短調「復活」
やまざき・こうたろう
演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。










