鈴木優人指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン 第174回定期演奏会 「英雄」とレクイエム ベートーヴェンへの道 vol.2

時代性と人物相関に目を配った構成――鈴木優人の歯切れ良いリードで二作の特質が際立つ

バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が、来年のベートーヴェン没後200年を見据え「ベートーヴェンへの道」と題したシリーズを進めている。2回目は交響曲第3番「英雄」と、同じ時期に活躍したルイジ・ケルビーニの「レクイエム」ハ短調を並べ、時代性や人物の相関に目を配った独創的な構成。「バッハの音楽に創立以来35年取り組んできたBCJだからこそ見ることのできる、これまで知られていないベートーヴェンの景色がある」(チラシか ら)と前口上は勇ましい。首席指揮者の鈴木優人がタクトを執った。

BCJ第174回定期演奏会は、ベートーヴェン没後200年を見据えたプログラム。指揮台に立ったのは首席指揮者の鈴木優人
BCJ第174回定期演奏会は、ベートーヴェン没後200年を見据えたプログラム。指揮台に立ったのは首席指揮者の鈴木優人 ⓒK.Miura

実演のインパクトは、やはり目ざましかった。鈴木優人の若々しく歯切れ良いリードを、ピリオド楽器団体ならではの音色と表現力を誇るBCJが積極的に受け止め、2曲の特質を満喫させてくれた。

前半の「英雄」は交響曲の歴史に革命をもたらすと共に、ナポレオンとの関係が指摘される傑作。同日は作品の革新性や壮大なエネルギーが噴出し、ことに対位法的な展開での面白さにコンビの長所が表れた。
キビキビとしたテンポの第1楽章は生々しい力感にあふれ、ゲストで現れたクラリネットの名手ロレンツォ・コッポラが存在感ある音色を繰り出す。第2楽章の葬送行進曲では弦セクション(第1ヴァイオリンから8-8-6-4-3人)のダークで端整な音色が威力を示し、オーボエの三宮正満が明瞭に絡んだ。第3楽章のハイライトとなるホルン3本のトリオでは福川伸陽らが妙技を全開にし、音色の異なるハーモニーを朗々と決めた。変奏と対位法の妙味を清々しく引き出した終楽章の、爽快な高揚が耳に残る。

ベートーヴェンの交響曲 第3番「英雄」
ベートーヴェンの交響曲 第3番「英雄」ⓒK.Miura

後半に置かれたケルビーニのレクイエムは、ナポレオンの失脚後、王政復古で即位したルイ18世の命で作曲され、フランス革命で落命したルイ16世を悼む式典で初演された。ベートーヴェンも強い影響を受け、自身の葬儀で演奏されたという。
独唱者を用いず混声合唱のみとした構成は、鍛錬されたコーラスをもつBCJにとって好都合。鈴木優人は作品に内在する自然な起伏を生かして、フルートを使わない楽器編成が織りなす沈潜した鎮魂の響きを、陰影深く形作った。劇的なディエス・イレでの鮮烈な盛り上げも演出力十分。

ルイジ・ケルビーニの「レクイエム」は、独唱者を用いず混声合唱のみとした構成 ⓒK.Miura

バッハで鍛えられた合唱は発音やテキスト解釈が明快で、少人数でも厚みがある。全体の精度がすこぶる高いので、聴き映えすること、この上ない。冒頭の入祭唱から静ひつな部分では、おごそかな雰囲気を格調高く醸す。奉献唱の三重フーガなど壮麗な聴きどころも、ぴたりと押さえた。実演の機会が少ない名品を、この水準で聴けた意義は大きい。

楽聖の記念年を単なるお祝いで終わらせないBCJの果敢な姿勢は、せっかくの節目に無関心な他団体に良い刺激となるだろう。

(深瀬満)

公演データ

バッハ・コレギウム・ジャパン第174回定期演奏会
「英雄」とレクイエム ベートーヴェンへの道 vol.2

9月27日(日)15:00東京オペラシティ コンサートホール

指揮:鈴木優人
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

プログラム
ベートーヴェン:交響曲 第3番「英雄」Op.55
ルイジ・ケルビーニ:「レクイエム」ハ短調

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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