カーチュン・ウォン指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 第779回定期演奏会

マーラー修正版の壮大な響きを体感!「第九」の堂々たる姿に迫った好演

4月の日本フィル東京定期。首席指揮者カーチュン・ウォンの指揮で、ベートーヴェン(マーラー修正版)の交響曲第9番「合唱」(今回の表示)が披露された。

首席指揮者カーチュン・ウォンの指揮で、ベートーヴェン(マーラー修正版)の交響曲第9番「合唱」が披露された Ⓒ飯田耕治
首席指揮者カーチュン・ウォンの指揮で、ベートーヴェン(マーラー修正版)の交響曲第9番「合唱」が披露された Ⓒ飯田耕治

シーズン開幕の定期演奏会で「第九」を取り上げるとなれば、「“年末第九”とは異なる姿勢で“ベートーヴェンの交響曲第9番”の本質を丁寧に表現する」、あるいは今回の場合「マーラーの“修正”に焦点を当てて、作品を見直す」狙いがうかがえる。
果たして結果は、「マーラー修正版の特徴をうまく利用して、作品の壮大さ・雄大さを改めて実感させる」演奏だった。

居並ぶ編成を見てまず目に入るのが、2対(2人)のティンパニとテューバの存在。弦楽器は16型でコントラバスは9本、管楽器はトロンボーンとコントラファゴットを除いて倍管でホルンは8本にも及ぶ(なお合唱団は130人ほど)。これを見るとマーラーの交響曲さながらだが、実態はそう単純ではない。

マーラー修正版「第九」ならではの編成 Ⓒ飯田耕治
マーラー修正版「第九」ならではの編成 Ⓒ飯田耕治

この編成が最も鮮烈な効果を発揮したのが第1楽章最後のクライマックスの場面。第2ティンパニとテューバに、トロンボーンまで加わったその壮絶な響きは、あたかもブルックナーの交響曲の頂点のよう。この多色刷の迫力は普段耳にしない凄(すさ)まじさだった。
だが、第2ティンパニとテューバはこれ以降登場することがなく、倍管の管楽器の半分(重複分)は強音場面をはじめとする局所のみに参加する。確かに、ホルンの咆哮(ほうこう)やトランペットの鋭いアタック、音の重ね方、ダイナミクスなど、この版ならではの場面も少なからずあるが、今回はそれが闇雲な音の増幅や華麗化に繋(つな)がるのではなく、「響きの隙間をなくし、作曲当時の制約を排して楽曲のあるべき姿を描く」マーラーの意図を感じさせるものだったといえる。同版は録音で聴いたことはあるが、生で体験すると新発見や納得させられる場面も多い。

大編成による多色刷の迫力は普段耳にしない凄まじさだった Ⓒ飯田耕治
大編成による多色刷の迫力は普段耳にしない凄まじさだった Ⓒ飯田耕治

全体に─特に第1、2楽章の─テンポは遅め。これも、マーラー修正版の壮大な響きを生かすには必然の設定だったと思われる。以下、細かくは触れないが、様々な動きがいつになく明確に奏されながら、「第九」の重奏的で堂々たる姿が真摯(しんし)かつ全力で表出された。声楽陣(別掲参照)は概ね好演。中でもソプラノの森谷真理の美声と伸びやかな歌唱が光った。
「第九」が有する音楽の大きさを再認識させられたコンサート。
(柴田克彦)

「第九」の重奏的で堂々たる姿が真摯かつ全力で表出された演奏だった Ⓒ飯田耕治
「第九」の重奏的で堂々たる姿が真摯かつ全力で表出された演奏だった Ⓒ飯田耕治

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団 第779回定期演奏会

4月10日(金)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:カーチュン・ウォン
ソプラノ:森谷真理
メゾソプラノ:林美智子
テノール:村上公太
バリトン:大西宇宙
合唱:晋友会合唱団
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:田野倉雅秋

プログラム
ベートーヴェン(マーラー修正版):交響曲第9番「合唱」ニ短調 Op.125

他日公演
4月11日(土)14:00サントリーホール 大ホール

Picture of 柴田克彦
柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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