イム・ユンチャン ピアノ・リサイタル 2026

若きヴィルトゥオーゾが独自の解釈を雄弁に披瀝

2022年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで史上最年少の18歳で優勝したイム・ユンチャンは、2004年韓国生まれ。彼の世代で最も注目されている若きヴィルトゥオーゾだ。
昨夜のリサイタルでは、当初発表されていた曲目から大きく変更された。シューベルトとスクリャービンのソナタを通して、ロマン派の深層に肉薄したプログラムである。

イム・ユンチャンが、当初の発表から変更してシューベルトとスクリャービンのソナタを披露した ©Junichiro Matsuo
イム・ユンチャンが、当初の発表から変更してシューベルトとスクリャービンのソナタを披露した ©Junichiro Matsuo

イムは、高度な演奏技巧と研ぎ澄まされた感性の持ち主である。今回も、みなぎる情熱を厭わず音楽に注ぎ込み、作品へ深く分け入っていく。ソナタのみのプログラムであったが、ロマン派初期と晩期のふたりの作曲家の創作において、鮮烈な律動性と彩り豊かな音色によって心象風景をあざやかに表現。同時に、彼ならではの独自の解釈を雄弁に披瀝した。

プログラム前半は、シューベルトのピアノ・ソナタ第17番。イムは、瑞々しいタッチによってパッションあふれる演奏を披露。第1楽章をエネルギッシュに開始し、展開部では転調や和声の変化を活かし、グラデーション豊かな色合いを生み出す。第2楽章においては、モノローグのような語り口が心に残る。第3楽章では、シューベルトらしい明るさを帯びた付点のリズムを通して、音楽にしなやかな脈動をもたらす。そしてフィナーレにおいて、愛らしいメロディをデリケートな息遣いで歌い上げていく。ロンド主題と中間主題を大きく対比させ、感情の起伏をきめ細やかに描き出していた。

シューベルトのピアノ・ソナタ第17番では、感情の起伏をきめ細やかに描き出した ©Junichiro Matsuo
シューベルトのピアノ・ソナタ第17番では、感情の起伏をきめ細やかに描き出した ©Junichiro Matsuo

休憩後は、スクリャービンのピアノ・ソナタ3曲。第2番から第4番のピアノ・ソナタは、スクリャービンの和声の書法が変わる時期の創作である。

まず、ピアノ・ソナタ第2番「幻想」。静と動、陰と陽のコントラストを大胆に描き、濃密なロマンティシズムを表した。鋭敏な打鍵から創出される音は、透き通るような美しさに満ちている。

ピアノ・ソナタ第2番「幻想」を弾き終えると、イムは続けてピアノ・ソナタ第3番に入っていく。多声的な書法で書かれているこの作品において、彼は壮麗でドラマティックな音空間を形成。時折ふと浮かび上がる感傷的なサウンドに心を揺さぶられる。

イムの鋭敏な打鍵から創出される音は、透き通るような美しさに満ちていた©Junichiro Matsuo
イムの鋭敏な打鍵から創出される音は、透き通るような美しさに満ちていた©Junichiro Matsuo

そして、ピアノ・ソナタ 第4番。嬰ヘ長調が持つ彼岸の世界を思わせる神々しい色彩とその高音の煌めきは、聴く者を恍惚へといざなう。2楽章構成のこのソナタを、単一楽章のように弾き切っていた。

リサイタルを通して、イムは精度の高い演奏を示した。

(道下京子)

精度の高い演奏を披露したイム。終演後は撮影OKとなり、イムは歓呼に応えるため何度もステージに登場した ©Junichiro Matsuo
精度の高い演奏を披露したイム。終演後は撮影OKとなり、イムは歓呼に応えるため何度もステージに登場した ©Junichiro Matsuo

公演データ

イム・ユンチャン ピアノ・リサイタル 2026

4月7日(火) 19:00ミューザ川崎シンフォニーホール

ピアノ:イム・ユンチャン

プログラム
シューベルト:ピアノ・ソナタ第17番 ニ長調 Op.53 D850 「ガスタイナー」
スクリャービン
:ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調 Op.19「ソナタ・ファンタジー」
:ピアノ・ソナタ第3番 嬰ヘ短調 Op.23
:ピアノ・ソナタ第4番 嬰ヘ長調 Op.30

アンコール
ラフマニノフ:ヴォカリーズ

これからの他日公演
4月8日(水)19:00東京芸術劇場 コンサートホール(東京)
4月9日(木)19:00サントリーホール 大ホール(東京)
4月11日(土)14:00ザ・シンフォニーホール(大阪)
4月12日(日)14:00福岡シンフォニーホール(福岡)

 

Picture of 道下京子
道下京子

みちした・きょうこ

桐朋学園大学音楽学部作曲理論学科卒業、埼玉大学大学院文化科学研究科修士課程修了。共著「ドイツ音楽の一断面――プフィッツナーとジャズの時代」など。「音楽の友」「ショパン」などの 音楽月刊誌や書籍、新聞、Web媒体、演奏会プログラムやCDの曲目解説など、ピアノのジャンルを中心に音楽経験を活かした執筆を行なっている。

連載記事 

新着記事