東京・春・音楽祭2026 ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲演奏会 I

ウィーンの名匠と日本の精鋭メンバーのチームプレイが成功させたベートーヴェン

いまやウィーンのピアニズムを継承する名匠としてその地位を揺るぎないものとしているブッフビンダー。ベートーヴェンやシューベルトなど独墺系の作曲家を中心に各地でリサイタルや室内楽を演奏しながら主要オーケストラとの共演も続けるなど、今年80歳を迎えるとは思えぬ精力的な活動は実に頼もしい。今回は東京春祭オーケストラ(コンサートマスター:豊嶋泰嗣)と共にベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を披露。2日に分けての開催となり初日(第2番変ロ長調Op.19、第4番ト長調Op.58、第3番ハ短調Op.37)を聴いた。(4月4日、東京文化会館 大ホール)

ルドルフ・ブッフビンダーが指揮およびピアノ独奏を務め、東京春祭オーケストラとともにベートーヴェンのピアノ協奏曲(2番、4番、3番)を披露した (C)平舘平
ルドルフ・ブッフビンダーが指揮およびピアノ独奏を務め、東京春祭オーケストラとともにベートーヴェンのピアノ協奏曲(2番、4番、3番)を披露した (C)平舘平

楽器(スタインウェイ)は客席に平行して置かれピアニストは基本的に座ったまま。音楽のコンセプトはオーケストラ(12型)のメンバー各人にゆきわたっているようで、要所でブッフビンダーの立ち上がる場面も見られたが、オーケストラだけで奏される長大な前奏部分以外はほぼ簡単な指示を出すにとどまる。

ブッフビンダーはほぼ座ったまま演奏し、細かい指示はなし。それでも、音楽のコンセプトはオケにゆきわたっていた (C)平舘平
ブッフビンダーはほぼ座ったまま演奏し、細かい指示はなし。それでも、音楽のコンセプトはオケにゆきわたっていた (C)平舘平

プログラム3曲いずれも先輩モーツァルトの影響や関連性が指摘されているが、ブッフビンダーは古典的な様式感を尊重しつつ持前の骨太のタッチと息の長いフレージングを生かして重厚なベートーヴェン像を打ち立てる。「第2番」はオケの出だしから弾むようなリズムとアクセント、明暗のコントラストが強調され、そうした特徴は独奏部分で踏襲される。急速な終楽章では短いスパンでのソロとオケのやり取りがスムーズで爽快感が漲(みなぎ)る。

ブッフビンダーとオケの爽快感が漲るやり取りが印象的 (C)平舘平
ブッフビンダーとオケの爽快感が漲るやり取りが印象的 (C)平舘平

次に中期の傑作「第4番」が置かれた。ソロが紡ぐ柔らかな前奏は「第2番」のアグレッシブ感から場内の空気を一変させる。第4番に至ってピアノの書法はより精密になり楽器編成が拡大され、オケも雄弁となる。それに対応すべくコンマス豊嶋泰嗣の能力がフルに発揮された。ピアニストがソロに没頭している間、実質的に豊嶋がオケを束ね、まさに拡大された室内楽的アンサンブルが実現(ピアノ五重奏を何倍にも広げた感じ)。ソロとトゥッティが激しく交差する終楽章は聴きごたえ十分。チームプレイが生んだ快演となった。

ブッフビンダーとコンマス豊嶋泰嗣の見事な連携が、快演につながった (C)平舘平
ブッフビンダーとコンマス豊嶋泰嗣の見事な連携が、快演につながった (C)平舘平

休憩を置いて「第3番」。実質的にこれが最も完成度が高かった。第1楽章の引き締まったテンポ設定での気品ある表現は格別、安定したテクニックと豊かな音量。カデンツァの終わり、長いトリルがコーダへ溶け込む静かな流れにも名匠の技が滲(にじ)み出る。祈りにも似た第2楽章ラルゴも心に響いた。

ベートーヴェン没後200年のプレ・イヤーに相応しい味わい深いコンサートとなった。
(城間 勉)

名匠の技が滲み出る、味わい深いコンサートだった (C)平舘平
名匠の技が滲み出る、味わい深いコンサートだった (C)平舘平

公演データ

東京・春・音楽祭2026 
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲演奏会 I

4月4日(土)18:00東京文化会館 大ホール

指揮/ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
管弦楽:東京春祭オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

プログラム
ベートーヴェン
:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調Op.19
:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調Op.58
:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調Op.37

他日公演
東京・春・音楽祭2026 
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ) ベートーヴェン ピアノ協奏曲 全曲演奏会 II

4月6日(月)19:00東京文化会館 大ホール

プログラム
ベートーヴェン
:ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調Op.15
:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調Op.73「皇帝」

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城間 勉

しろま・つとむ

音楽大学で音楽学を学ぶ。卒業後はクラシック専門音楽雑誌とクラシック情報誌の編集業務に携わり、2022年からフリーランスとして活動。とくに好きなジャンルは協奏曲、ピアノ曲、オペラなど(もちろんそれ以外のジャンルも聴きます)。B級グルメ探訪を趣味としている。イヌ科の動物を愛する。

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