C × Baroque シー・バイ・バロック 大塚直哉が誘うバロックの世界 Vol.5 コンチェルトとソナタ~バロックの申し子たちの成長とその先

およそ110年間にわたるソナタとコンチェルトを古楽器で堪能した貴重な演奏会

過去4回、神奈川県民ホール(休館中)で行われていたシリーズを、場所を移して開催。同ホール所蔵のチェンバロ(1730年ブランシェ親子製作のものを1994年ナーゲル社がコピーしたフレンチダブル・マニュアル)も「みなとみらい小ホール」に移動してきた。

盛りだくさんな企画だった。1610年ミラノで楽譜が出されたG.P.チーマ(1570~1630)の4分ほどの「ソナタ」からテレマンやバッハの有名作まで、イタリア、フランス、ドイツの7人によるおよそ110年間のソナタ(前半5曲)とコンチェルト(後半3曲)が次々と披露された。演奏者も大塚直哉のチェンバロを中心とする7人が順列組み合わせ的に登場、最後に全員揃って「ブランデンブルク協奏曲第5番」となった。

大塚直哉のチェンバロを中心とする7人が登場し、盛りだくさんな内容の公演だった 撮影:堀田 力丸
大塚直哉のチェンバロを中心とする7人が登場し、盛りだくさんな内容の公演だった 撮影:堀田 力丸

開演前には演奏ピッチが少し心配だった。バッハを中心に考えるならば基準音「ラ」は415ヘルツ、つまり現在の標準(440~442ヘルツ)より半音低いチューニングがなされるはず。ただし「ヴィヴァルディ時代のヴェネツィアは440だった」「ラモー時代のパリは380」「ヴィヴァルディの楽譜を印刷したアムステルダムは415」などこの問題は奥が深く、追及し始めるとキリがない。演奏者側からは特にインフォメーションは無かったものの、結果は全て「415」で統一。聴き手としては安定感があった。

8曲の中では特に桐山建志と大塚直哉によるバッハ「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ ハ短調」が素晴らしかった。「受難曲」との関係が指摘され、ヴァイオリンが予想外の大きなヴィブラートで歌う冒頭楽章から、正に音楽が「来た」と感じさせた最終第4楽章のアレグロ(ここはほとんどノン・ヴィブラートで走り抜けた)まで、全篇に両名の才気が迸(ほとば)しっていた。

桐山建志と大塚直哉によるJ.S.バッハ「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ ハ短調」 撮影:堀田 力丸
桐山建志と大塚直哉によるJ.S.バッハ「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ ハ短調」 撮影:堀田 力丸

最後の「ブランデンブルク協奏曲第5番」はフル編成、とはいえ各パートひとり、チェンバロを含め7人での演奏。「古楽系」では今や当たり前の措置だが、20世紀の演奏会では普通だった厚い弦の響きに支えられたロマン派風の演奏もまあ悪くなかった。今回は縦の線がスッキリ揃った軽い響きでの再現で、奏者の個性の違いもわかり、やはりこれが正解だろう。第1楽章の最後、フルート・ソロの音が点描風になって行った先に配置されたチェンバロによる65小節、延々3分に及ぶ有名なカデンツァは、軽めの明るい音が心地良かった。何気なく弾いているようで実は他の奏者を牽(けん)引していた桐山のヴァイオリンにも改めて感心。バロックからヒンデミットまでこなすこの才人の存在は実に貴重だ。

フル編成のブランデンブルク協奏曲第5番 撮影:堀田 力丸
フル編成のブランデンブルク協奏曲第5番 撮影:堀田 力丸

コレッリのソナタのみ左脇(肩ではなく)の上に楽器を当てる奇妙なスタイルで演奏した廣海史帆のバロック・ヴァイオリンを見て、1982年秋に体験したラインハルト・ゲーベルによる伝説のソロ・リサイタルを思い出したのも不思議な体験だった。
(渡辺和彦)

コレッリ「トリオ・ソナタヘ長調」 撮影:堀田 力丸
コレッリ「トリオ・ソナタヘ長調」 撮影:堀田 力丸

公演データ

C × Baroque シー・バイ・バロック
大塚直哉が誘うバロックの世界 Vol.5
コンチェルトとソナタ~バロックの申し子たちの成長とその先

3月20日(金・祝)15:00横浜みなとみらいホール 小ホール

チェンバロ:大塚直哉
バロック・ヴァイオリン:桐山建志、大西律子
バロック・ヴァイオリン&ヴィオラ:廣海史帆
バロック・チェロ:西沢央子
ヴィオローネ:栗田涼子
フラウト・トラヴェルソ:戸髙美穂

プログラム
コレッリ:トリオ・ソナタヘ長調 Op.3-1
G.P.チーマ:ヴィオリーノとヴィオローネのためのソナタ ト短調(1610年)
テレマン:フルートと通奏低音のためのソナタ ロ短調TWV41:h3〝続ソナタ・メトディーク〟(1732)
カルダーラ:4声のソナタ ロ短調
J.S.バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第4番 ハ短調BWV1017
ラモー:ラ・ラボルド(コンセール形式によるクラヴサン曲集第2番RCT8より)
ヴィヴァルディ:弦楽のための協奏曲ハ長調RV114
J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調BWV1050

アンコール
J.S.バッハ:管弦楽組曲第3番から「エア(アリア)」

主催:神奈川県民ホール(指定管理者:公益財団法人神奈川芸術文化財団)
協力:横浜みなとみらいホール(指定管理者:公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
後援:日本チェンバロ協会

Picture of 渡辺 和彦
渡辺 和彦

わたなべ・かずひこ

音楽評論家。北海道生まれ。弦楽器と歌(他ジャンルを含む)、猫、小鳥好き。
NHK「朝のバロック」他の企画構成を約20年担当、FM東京(現トーキョーFM)クラシック番組担当も長く務める。前後して「ヴァイオリニスト33」(河出書房新社)、「ヴァイオリン・チェロ名曲名演奏」(音楽之友社)、「ラテン・クラシックの情熱」(水曜社)などを発表。最初の著作「クラシック辛口ノート」(洋泉社)のため「辛口評論家」と言われることも多いが実はそれほどでもない。

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