上岡敏之指揮 読売日本交響楽団 第284回 土曜マチネーシリーズ

上岡敏之の研ぎ澄まされた感性と鳥羽咲音の気品が際立つ名曲集

一見オーソドックスな名曲プログラム。だが上岡敏之が指揮台に立つと、新たな光が差し込み、聴き慣れたはずの音楽が新鮮な表情で立ち現れる。

上岡敏之が指揮台に立ち、名曲プログラムを披露した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
上岡敏之が指揮台に立ち、名曲プログラムを披露した ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

チャイコフスキー「幻想序曲〝ロミオとジュリエット〟」は、メロドラマに流れない真摯(しんし)さを湛(たた)えていた。序奏は弱音を強調した宗教的響きで始まる。モンタギュー家とキャピレット家の争いの主題では、怒りが噴出するような強音が鮮烈な衝撃を与えた。一方、ロミオとジュリエットの愛の主題は儚(はかな)さと不安が交錯し、対立との葛藤の中で悲劇的に高揚する。ティンパニの激しい一撃が二人の死を暗示。昇天を描く木管が清らかに奏される。終結の総奏は荘厳な悲劇性を帯びた。

チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲」のソリストは鳥羽咲音。しっとりと温かな音色で、優雅かつ洗練された表情を備える。滑らかな運弓に加え、ポジション移動も正確。第3変奏は豊かな低音から高音フラジョレットまで安定。聴かせどころの第5変奏では、トリルで紡ぐ旋律が見事で、重音の連続や起伏の大きいカデンツァも繊細かつ大胆に弾き切った。上岡と読響も鳥羽をきめ細かく支えた。アンコールはパガニーニ「24のカプリース」より第14番。軍隊行進曲風の旋律が重音で奏でられ、ホールを豊かに満たした。

チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲」のソリストは鳥羽咲音。しっとりと温かな音色で、優雅かつ洗練された表情を備えていた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲」のソリストは鳥羽咲音。しっとりと温かな音色で、優雅かつ洗練された表情を備えていた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

フォーレ「付随音楽〝ペレアスとメリザンド〟」組曲では、上岡と読響が神秘的悲劇にふさわしい繊細な音楽を紡いだ。〝前奏曲〟では、メリザンドを象徴する静謐(せいひつ)な弦がほのかに立ち上がり、ゴローを告げるホルンが遠くから聞こえる。〝糸をつむぐ女〟では、糸車を思わせる第1ヴァイオリンの三連符はゆったりと印象的で、初演の速さを問題視したフォーレの逸話への応答のようであった。〝シシリエンヌ〟はフルートが柔らかく歌い、全体もきわめて繊細。〝メリザンドの死〟では、低弦のピッツィカートと追悼のトランペットが悲劇を深め、天上へ導くようにフルートが静かに上行した。

ラヴェル「ボレロ」は、上岡の研ぎ澄まされた感性と独自の解釈が鮮明に刻まれた快演。冒頭のスネアドラムと弦のピッツィカートは最弱奏で始まり、クラリネットは遠くから浮かび上がる。エスクラリネット、ファゴットは鋭い切れ味を示し、フルートとミュート・トランペットは異界からの声のようであった。テナーおよびソプラノ・サクソフォンにも上岡が表情まで細かく指示。ピッコロ、ホルン、チェレスタの組み合わせも夢幻的である。スネアドラムが2台となり楽器が増しても、引き締まった透明度の高い音響が維持された。最後は銅鑼(どら)も加わって強烈な頂点を築き、一気に崩れ落ちるかのように終えた。
(長谷川京介)

ラヴェル「ボレロ」は、上岡の研ぎ澄まされた感性と独自の解釈が鮮明に刻まれた快演だった ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ラヴェル「ボレロ」は、上岡の研ぎ澄まされた感性と独自の解釈が鮮明に刻まれた快演だった ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

公演データ

読売日本交響楽団 第284回 土曜マチネーシリーズ

2月21日(土)14:00東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:上岡敏之
チェロ:鳥羽咲音
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:林 悠介

プログラム
チャイコフスキー:幻想序曲「ロミオとジュリエット」
チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 作品33
フォーレ:付随音楽「ペレアスとメリザンド」組曲
ラヴェル:ボレロ

ソリスト・アンコール
パガニーニ:24のカプリースより第14番

これからの他日公演
2月22日(日)14:00東京芸術劇場 コンサートホール

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長谷川京介

はせがわ・きょうすけ

ソニー・ミュージックのプロデューサーとして、クラシックを中心に多ジャンルにわたるCDの企画・編成を担当。退職後は音楽評論家として、雑誌「音楽の友」「ぶらあぼ」などにコンサート評や記事を書くとともに、プログラムやCDの解説を執筆。ブログ「ベイのコンサート日記」でも知られる。

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