世界的なワーグナー指揮者のひとりであるフィリップ・ジョルダンとN響の初共演による個性あふれる「神々の黄昏」(抜粋)
スイス出身の人気指揮者フィリップ・ジョルダンがN響2月定期Aプロに登場。得意のワーグナー作品を軸とする〝ライン・プロ〟で彼の個性を余すところなく反映させた演奏を聴かせた。
ジョルダンはウィーン国立歌劇場前音楽監督。昨秋の来日公演でリヒャルト・シュトラウス「ばらの騎士」を指揮し高評価を得たことは記憶に新しい。ワーグナー上演の総本山バイロイト音楽祭には2012年に「パルジファル」再演でデビュー。2017年にはバリー・コスキー演出「ニュルンベルクのマイスタージンガー」新制作を指揮し、最終年の21年までこれを務めたことでワーグナー指揮者としての評価を確立した。リング・ツィクルスもウィーンやメトロポリタン歌劇場などで指揮して成功を収めている。筆者がこれまで取材した印象ではワーグナーの重層構造の音楽をスケルトンのように見通しよく整理して組み立て直し、現代的なセンスあふれる雰囲気で聴かせるというものであった。この日のN響との初共演もまさにそうした彼の個性を反映させたサウンドをオケから引き出してみせた。
前半はシューマンの交響曲第3番。第1楽章からジョルダンの音作りが全開となる。楽器を重ねて主旋律を響かせる印象の強いシューマン作品だが、パート間の音量バランスを調整して埋没しがちな内声部や対旋律を浮かび上がらせていく。弦楽器に埋もれがちなクラリネットをベルアップして強く吹かせるなど、彼の指向は視覚的にも分かり易く伝わってきた。時折響く柔らかで暖色系のハーモニーは普段のN響からはあまり聴かれないものであり、短期間に自らの音のイメージを浸透させている点に彼の手腕が表れていた。
後半は米国出身のソプラノ、タマラ・ウィルソンをブリュンヒルデ役にワーグナーの楽劇「神々の黄昏」から〝ジークフリート ラインへの旅〟〝ジークフリートの葬送行進曲〟〝ブリュンヒルデの自己犠牲〟を取り上げた。ハープ6台など譜面の指定通りの大編成での演奏だが、いたずらに大音響を鳴らすことなく、響きの均衡を保ちながらジョルダン流の音作りが徹底されていた。オケが全開になったのは〝葬送行進曲〟の終盤〝ジークフリート英雄の動機〟をトゥッティで演奏する部分と〝自己犠牲〟でブリュンヒルデが火中に飛び込む場面以降に絞られていた。最終盤〝救済の動機〟が繰り返される箇所でオペラ劇場ではあまり聴こえないハープのアルペジオが明瞭に聴こえ、その美しい絡み合いは新鮮な驚きでもあった。ウィルソンはブリュンヒルデに相応しい強い声の持ち主ではあるが、父ヴォータンに呼びかける箇所などでもう少し感情が表現できればより良かったと感じた。
全体としては指揮者の個性が反映された秀演であり、オケ退場後も喝采が鳴りやまず、ジョルダンが再登場し歓呼に応える盛り上がりとなった。
(宮嶋 極)
公演データ
NHK交響楽団 第2057回 定期公演 Aプログラム
2月7日(土)18:00NHKホール
指揮:フィリップ・ジョルダン
ソプラノ:タマラ・ウィルソン
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:長原 幸太
プログラム
シューマン:交響曲 第3番 変ホ長調 Op.97「ライン」
ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」から〝ジークフリート ラインへの旅〟(主催者表記=ジークフリートのラインの旅) 〝ジークフリートの葬送行進曲〟〝ブリュンヒルデの自己犠牲〟
他日公演
2月8日(日)14:00NHKホール
みやじま・きわみ
放送番組・映像制作会社である毎日映画社に勤務する傍ら音楽ジャーナリストとしても活動。オーケストラ、ドイツ・オペラの分野を重点に取材を展開。中でもワーグナー作品上演の総本山といわれるドイツ・バイロイト音楽祭には2000年代以降、ほぼ毎年訪れるなどして公演のみならずバックステージの情報収集にも力を入れている。










