ジェームズ・フェデック指揮 読売日本交響楽団 第655回定期演奏会

記憶に残る演奏会――読響初登場のフェデックが得意のブルックナーで熱演

当日までの変更が2つあったことでも、記憶に残るだろう演奏会。
まず1月13日に、前半の曲目が望月京のヴァイオリンとオーケストラのための新作の世界初演から、細川俊夫のヴァイオリン協奏曲「ゲネシス(生成)」に変更されることが発表された。続いて1月30日には、指揮者のマリオ・ヴェンツァーゴが急な体調不良のために来日できなくなり、ジェームズ・フェデックに交代することが発表された。

指揮者のマリオ・ヴェンツァーゴの代役として、急遽ジェームズ・フェデックが指揮台に立った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
指揮者のマリオ・ヴェンツァーゴの代役として、急遽ジェームズ・フェデックが指揮台に立った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

細川の「ゲネシス(生成)」は、初演者のヴァイオリニスト、ヴェロニカ・エーベルレの出産を祝って書かれ、彼女に捧げられた作品。エーベルレを独奏とする2021年のハンブルクでの初演は、コロナ禍のため配信によって行われた。日本初演は翌年7月にNHK交響楽団が行ったが、このときはソリストに予定されたエーベルレが体調不良で来日不可能となり、ゲスト・アシスタント・コンサートマスター(当時)の郷古廉が急遽の代役をつとめている。

「羊水の記憶」と作曲者がイメージしたオーケストラの波動のなかから、諏訪内晶子のヴァイオリンが新たな生命として起動する。やがてカデンツァ風のソロで自我を主張し、対立と対話をへて、外界と静かに豊かに融合していく。諏訪内の艶やかな響きと存在感、それを盛りたてるフェデックのていねいな指揮が印象に残る。なお弦五部の編成は作曲者指定のうちから、中低音域を厚めにした8-8-8-6-4が採用されていた。

諏訪内晶子のヴァイオリンの艶やかな響きと存在感、フェデックのていねいな指揮が印象に残った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
諏訪内晶子のヴァイオリンの艶やかな響きと存在感、フェデックのていねいな指揮が印象に残った ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

この日が東京での指揮デビューとなったフェデックはオーバリン音楽院で学んだアメリカの指揮者で、2013年にサー・ゲオルク・ショルティ指揮賞を与えられている。欧米各地の一流オーケストラのなかでもクリーヴランド管弦楽団と縁が深く、現在はクリーヴランド管弦楽団ユースオーケストラの首席指揮者兼音楽顧問をつとめている。

ブルックナーの交響曲第7番(ノヴァーク版)での指揮ぶりは、奇をてらわず、ゆったりとしたアプローチ。楽想の変化もなだらかに描かれる。響きはまろやかで、ダイナミクスの幅はあまり大きくない。急な代役ということで、金管の出などで手さぐりになる箇所があったのは仕方がないだろう。オーケストラは強い集中力をもって演奏し、とりわけ終楽章は熱演となった。

ブルックナーの交響曲第7番(ノヴァーク版)で、オーケストラは強い集中力をみせた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇
ブルックナーの交響曲第7番(ノヴァーク版)で、オーケストラは強い集中力をみせた ©読売日本交響楽団 撮影=藤本崇

音が鳴りやんだ直後にブラボーが叫ばれて余韻を壊し、拍手がとまどうように乱れながら始まったのは残念だった。

(山崎浩太郎)

公演データ

読売日本交響楽団 第655回定期演奏会

2月4日(水) 19:00サントリーホール 大ホール

指揮:ジェームズ・フェデック
ヴァイオリン:諏訪内晶子
管弦楽:読売日本交響楽団
コンサートマスター:林 悠介

プログラム
細川俊夫:ヴァイオリン協奏曲「ゲネシス(生成)」
ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調 WAB107(ノヴァーク版)

Picture of 山崎 浩太郎
山崎 浩太郎

やまざき・こうたろう

演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。クラシック音楽専門誌各誌や各種サイトなどに寄稿するほか、朝日カルチャーセンター新宿教室にてクラシック音楽の講座を担当している。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。1963年東京生まれ。

連載記事 

新着記事 

:"Please specify a valid e-mail"}};