楽都ウィーンの香気や美意識を色濃く伝えるツェドニク演出の「こうもり」
年末年始の歌劇場で恒例の出し物といえば、ヨハン・シュトラウスⅡ世の喜歌劇「こうもり」が世界中の定番。日本の新国立劇場では、2006年にプレミエを出したプロダクションが、レパートリー公演として親しまれてきた。今回で実に8度目の上演となる。
ここまで生き残った最大の理由は、初演されたウィーン独特の香気や美意識を色濃く伝えるハインツ・ツェドニクの演出にあろう。現地でテノールとして大活躍した人だけに、楽都ならではの洒脱な舞台感覚は生来、身に染みていたのだろう。展開はオーソドックスで、東京二期会が出したアンドレアス・ホモキ演出のように、とんがった仕掛けはない。
改めて見直してみても、流麗な曲線や植物の模様をあしらったユーゲントシュティール風の美術は優美で、金色や水色を主体にした渋い色遣いがシック。微妙に左右対称を崩した作りが興趣を増す。物語は、これらをしつらえた舞台上の額縁内で展開される。登場人物のしゃれた仕草を含め、ちょっと典雅な仕立てが作品の味わいとマッチしている。幕切れで復讐劇の種明かしをする場面では、刑務所の暗い事務所から舞踏会の華やかな会場へ一瞬で転換し、鮮やかさに目を見はった。
同じくウィーンから来ていたトーマス・ノヴォラツスキー芸術監督時代のプロダクションには初演当時、賛否あったが、時の試練に耐えてレパートリーに残った舞台には、それなりの理由があることが分かる。
さて「こうもり」といえば、沸きたつような序曲から始まって、楽しいアリアやワルツ、ポルカまで、親しみやすい音楽にあふれる。この日は練習時間が短いレパートリー公演の初日ゆえ、若干こなれない部分もあったが、回数を重ねると熟成度が高まりそうだ。
主役級の歌手では、悪友に復讐される銀行家アイゼンシュタイン役の若手テノール、トーマス・ブロンデルが、ドイツの歌劇場で活躍するキャリア通り、安定感ある役作りをみせた。その妻ロザリンデ役のサビーナ・ツヴィラクはドラマティック・ソプラノで、高域で張り上げた時の硬質な押し出しに威力がある。アイゼンシュタイン家の小間使い、アデーレ役のソプラノ、マリア・シャブーニアは途中から調子を上げ、よく伸びるコロラトゥーラを駆使してコケティッシュな魅力を発散した。
日本人キャストでは、第2幕で舞踏会を仕切るロシアの貴族・オルロフスキー公爵役のカウンターテナー、藤木大地が怪しげなキャラクターを巧みに表出。役どころを手中に収めた堂々たる演唱で気を吐いた。
独ダルムシュタット州立劇場音楽総監督を務める若手指揮者、ダニエル・コーエンのタクトは威勢がいいが、全体にやや直線的。歌手との呼吸をさらに深め、東京交響楽団とふくよかな厚みを出せると、馥郁(ふくいく)たる雰囲気が舞い立つだろう。
(深瀬満)
公演データ
新国立劇場 2025/2026シーズン
ヨハン・シュトラウスⅡ世「こうもり」
1月22日(木)18:00新国立劇場 オペラパレス
指 揮:ダニエル・コーエン
演 出:ハインツ・ツェドニク
美術・衣裳:オラフ・ツォンベック
振 付:マリア・ルイーズ・ヤスカ
照 明:立田雄士
ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン:トーマス・ブロンデル
ロザリンデ:サビーナ・ツヴィラク
フランク:レヴェント・バキルジ
オルロフスキー公爵:藤木大地
アルフレード:伊藤達人
ファルケ博士:ラファエル・フィンガーロス
アデーレ:マリア・シャブーニア
ブリント博士:青地英幸
フロッシュ:ホルスト・ラムネク
イーダ:今野沙知恵
合 唱:新国立劇場合唱団
バレエ:東京シティ・バレエ団
管弦楽:東京交響楽団
プログラム
ヨハン・シュトラウスⅡ世「こうもり」 全3幕(ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付)
これからの他日公演
1月24日(土)、25日(日)、27日(火)、29日(木)
14:00新国立劇場 オペラハウス
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。










