ワーグナーを伝統に持つハンブルク州立歌劇場にて「さまよえるオランダ人」で成功した大野和士
大野和士が、1月17日にハンブルク州立歌劇場で、ワーグナー「さまよえるオランダ人」を指揮した。13日が初日で、30日まで4公演行われる。
大野は、1996年にこの歌劇場の引越公演で「リゴレット」を指揮し、鮮烈な印象を受けたのが記憶にある。
旧西ドイツ時代、バイエルン州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラと並んで「3大歌劇場」と呼ばれ、ワーグナー存命中に作品を上演、ハンス・フォン・ビューローやマーラーなどが、歴代の指揮者を務めた歌劇場でワーグナーを指揮するのは意義深い。
大野は2005年、「さまよえるオランダ人」をベルギーのモネ劇場で指揮した。オランダ人がエギルス・シリンス、ゼンタがアーニャ・カンペで、演出はギー・カシアスといった、その後のワーグナーシーンで活躍する逸材が揃っていた。
その後は、2014年にリヨン歌劇場でアレックス・オリエのリアルな映像が印象的な演出の公演の指揮で評価を高めた。
今回のミヒャエル・タールハイマー演出のプロダクションは、2022年ハンブルク州立歌劇場にて、ケント・ナガノの指揮で新制作上演されている。
舞台中央から数多くの透明なコードが吊るされ、そこに投影される一本の光の筋で船が表現される。音楽を邪魔する演出の要素はなく、音楽とそれに伴う演技で作品自体の醍醐味を味わえるものとなっている。
オランダ人はバイロイト音楽祭でも演じた重鎮のミヒャエル・フォレが運命に翻弄されるオランダ人の苦悩を見事に表現。ゼンタのシモーネ・シュナイダーはシュトゥットガルト歌劇場の専属で、同劇場ではジークリンデや「影のない女」の皇后を歌っている。少女の優美さと自らの意志を示す太く通る声を局面に応じて歌い分けるなど、存在感を示した。
この作品は、ワーグナー自身がバイロイト音楽祭での上演を認めた10作品の最初の作品で、独自の世界を確立する入口となった。それまでのロマンティックオペラやイタリアオペラなどの性格が残り、その後の作品に重要な役割を果たすモノローグや休載も姿を現すワーグナーのオペラ作曲家としての桁外れの素養が発揮された作品である。
オランダ人のこれまでの人生を振り返るモノローグ、またゼンタとの結婚によって、受け取る財宝による未来を夢見るダーラント船長の歌、「さまよえるオランダ人」伝説を幼い頃から刷り込まれ、自らの運命を想像するゼンタのバラードなど、異なった性格の音楽を違和感なく結びつける大野の手腕は、今回も発揮された。
大野の要求にこたえた歌劇場のオーケストラと合唱も共感に満ちた素晴らしい演奏を繰り広げた。
(平末 広)
公演データ
ハンブルク州立歌劇場 ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」
1月17日19:00(土)ハンブルク州立歌劇場
指揮:大野和士
演出:ミヒャエル・タールハイマー
ダーラント船長:ダヴィッド・レイフ
ゼンタ:シモーネ・シュナイダー
エリック:アッティーロ・グレーザー
マリー:カーチャ・ピーヴェック
操舵手:ダニエル・クリューゲ
オランダ人:ミヒャエル・フォレ
合唱:ハンブルク州立歌劇場合唱団
管弦楽:ハンブルク州立歌劇場管弦楽団
プログラム
ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」(全3幕)
これからの他日公演
1月23日(金)19:00、30日(金)19:00ハンブルク州立歌劇場
ひらすえ・ひろし
音楽ジャーナリスト。神戸市生まれ。東芝EMIのクラシック担当、産経新聞社文化部記者、「モーストリー・クラシック」副編集長を経て、現在、滋賀県立びわ湖ホール・広報部。EMI、フジサンケイグループを通じて、サイモン=ラトルに関わる。キリル・ぺトレンコの日本の媒体での最初のインタビューをしたことが、ささやかな自慢。










