広上淳一指揮 日本フィルハーモニー交響楽団 第777回東京定期演奏会

自由と平和を希求するコンセプチュアルなプログラムで入魂の演奏を聴かせる

1月の日本フィル定期。「フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)」の広上淳一の指揮で、ファジル・サイのチェロと管弦楽のための協奏曲「Never Give Up」(独奏:カミーユ・トマ)と、ショスタコーヴィチの交響曲第15番が披露された。

広上淳一が指揮台に立った第777回定期。ファジル・サイのチェロと管弦楽のための協奏曲「Never Give Up」の独奏はカミーユ・トマが務めた ©️山口敦
広上淳一が指揮台に立った第777回定期。ファジル・サイのチェロと管弦楽のための協奏曲「Never Give Up」の独奏はカミーユ・トマが務めた ©️山口敦

サイの協奏曲は、パリやトルコのテロ事件に焦点を当てた作品で、「自由と平和への叫び」を響かせ、ショスタコーヴィチの方は、圧政に苦しめられながらも生き延びた作曲家の最後の交響曲。すなわちこれは多分にコンセプチュアルなプログラムである。

サイの協奏曲は、今回のソリスト、トマのために書かれた作品で、本人の熱望による選曲との由。実際トマは曲紹介のスピーチを行ってから演奏に入るなど、思い入れの強さが痛いほど伝わる。演奏自体も然り。彼女は豊潤な音色で訴えかけるようなソロを繰り広げる。中でも印象的だった第1楽章冒頭の無伴奏部分をはじめ、入魂の演奏がじっくりと展開され、日本フィルも献身的に協奏した。

トマが持参した楽器「チャフチャス」を、ヴィオラ奏者が演奏した。こんなところにもトマの思い入れの強さがうかがえる ©️山口敦
トマが持参した楽器「チャフチャス」を、ヴィオラ奏者が演奏した。こんなところにもトマの思い入れの強さがうかがえる ©️山口敦

アンコールは、バッハの無伴奏組曲第1番の前奏曲とピアッティの無伴奏カプリース第7番。個人的にはオーケストラの定期でソリストが2曲もアンコールを弾くのは大反対なのだが、今回は流れの中で自然に奏された感がある。ただし、精度は本編の方が圧倒的に高かった。

後半のショスタコーヴィチの交響曲第15番は、様々な見方がなされている曲だが、広上は作曲者の「虚無感」や「諦念」」を表す作品と捉えているという。どこか淡々・粛々とした演奏も、まさにそれを強く感じさせた。「おもちゃ箱」風の第1楽章&第3楽章と「コラール」調の第2楽章&第4楽章前半の対照性や各種の引用フレーズなど、曲の特徴も明確に打ち出されていくのだが、デフォルメされることはなく、広上にしては「遊び」の少ない真摯(しんし)な演奏に終始した。中でも各フレーズが丁寧に描かれた第2楽章は出色で、作曲者の指定(希望)通りチェロ12本、コントラバス10本に増強された低弦(特に後者)も大いに効果を発揮。数多い各楽器のソロはどれも秀逸で、日本フィルの好演が光る一夜ともなった。
(柴田克彦)

ショスタコーヴィチの交響曲第15番より。数多い各楽器のソロはどれも秀逸だった ©️山口敦
ショスタコーヴィチの交響曲第15番より。数多い各楽器のソロはどれも秀逸だった ©️山口敦

公演データ

日本フィルハーモニー交響楽団 第777回東京定期演奏会

1月16日(金)19:00サントリーホール 大ホール

指揮:広上淳一[フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)]
チェロ:カミーユ・トマ
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:木野 雅之

プログラム
ファジル・サイ:チェロと管弦楽のための協奏曲「Never Give Up」 Op.73
ショスタコーヴィチ:交響曲第15番 イ長調 Op.141

ソリスト・アンコール
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV 1007より 前奏曲
A.ピアッティ:無伴奏チェロのためのカプリース Op.25より 第7番

他日公演
1月17日 (土) 14:00サントリーホール 大ホール

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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