フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン 2025 昼公演〝DANCE〟

多彩な音楽性と遊び心――ジャンルを超越した音楽の楽しさを満喫!

ウィーン・フィルとベルリン・フィルのメンバーを中心とする7人組、「フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン」。例えば、第1ヴァイオリンはベルリン・フィルのコンサートマスター、ノア・ベンディックス=バルグリーである。12月9日の昼公演のテーマは「DANCE」。様々な民族の音楽を交えた舞踊系の音楽を集めた。MCはクラリネットのダニエル・オッテンザマーが英語で行う。

フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン (c)Fumito
フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン (c)Fumito
MCを務めたクラリネットのダニエル・オッテンザマー (c)Fumito
MCを務めたクラリネットのダニエル・オッテンザマー (c)Fumito

いきなり、ギュルトラー「Noriet Saule Vakara(真夜中の讃歌)」の超快速演奏で、超絶的な技巧やアンサンブルの高度さを見せつける。これはバルト地方の民謡による。続くギュルトラー「Judz Tautietis」もバルト系の音楽。抒情的な小品。作曲のセバスティアン・ギュルトラーは、同楽団のヴァイオリン奏者であり、同楽団のために作曲や編曲を行う才人である。

ノア・ベンディックス=バルグリー(前方)とセバスティアン・ギュルトラー(後方)(c)Fumito
ノア・ベンディックス=バルグリー(前方)とセバスティアン・ギュルトラー(後方)(c)Fumito

ショパン(コンツ編曲)「プレリュード」は少し頽廃的なアレンジ。コンツ「Ciocarlia」はルーマニア系の快速な音楽。ヴァイオリンがヴィルトゥオジティを披露。シュテファン・コンツは、同楽団及びベルリン・フィルのチェロ奏者。彼も作曲や編曲を行う。

続いてフランス音楽。ティルセン(ギュルトラー編曲)「アメリのワルツ」は映画の音楽。ラヴェル(コンツ編曲)「ラ・ヴァルス」は非常に洗練された味わい。1パート1人だからこその妙技があり、名手7人のスケールの大きさもある。コンツの奏でるワルツがおしゃれ。

編曲を手掛けるチェロのシュテファン・コンツが、おしゃれなワルツを奏でた (c)Fumito
編曲を手掛けるチェロのシュテファン・コンツが、おしゃれなワルツを奏でた (c)Fumito

後半は、速いテンポのコンツ「Witch Hunt」で始まる。コヴァーチ「Sholem Alekhem」では、オッテンザマーがユダヤ民族音楽系の旋律をたっぷりと歌い上げる。スペインのファリャ(コンツ編曲)の「Nana(子守歌)」ではコンツが気だるく静かに歌う。ギュルトラー「Babarababa」はブラジル音楽風の小品。ギュルトラーがヴォーカルを披露し、多才ぶりを発揮。

「Babarababa」では、ギュルトラーがヴォーカルを披露し、多才ぶりを発揮した (c)Fumito
「Babarababa」では、ギュルトラーがヴォーカルを披露し、多才ぶりを発揮した (c)Fumito

そしてウィリアムズ(コンツ編曲)「スター・ウォーズ」より「カンティーナ・バンド・スウィング」、坂本龍一(咲間貴裕編曲)「戦場のメリークリスマス」と映画音楽が続く。

最後は、オーストラリア伝承曲(コンツ編曲)「ワルチング・マチルダ」。ベンディックス=バルグリーが美音で旋律をじっくりと歌ったあと、アップ・テンポになり締め括られた。

アンコールには、フェリシアーノ(ギュルトラー編曲)「フェリス・ナヴィダ」。そして、スティング(コンツ編曲)「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」で、客席の手拍子も交えた盛大なエンディング。

客席の手拍子も交えた盛大なエンディングで会場は大盛り上がり (c)Fumito
客席の手拍子も交えた盛大なエンディングで会場は大盛り上がり (c)Fumito

最高の技術、高度なアンサンブル、多彩な音楽性、そして、遊び心。この楽団のためになされた編曲による、質の高いステージによって、ジャンルを超越した音楽の楽しさを満喫した。

(山田治生)

公演データ

フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン 2025
昼公演 〝DANCE〟

12月9日(火) 14:00東京オペラシティ コンサートホール

フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン
ヴァイオリン:ノア・ベンディックス=バルグリー
ヴァイオリン:セバスティアン・ギュルトラー
ヴィオラ:ティロ・フェヒナー
チェロ:シュテファン・コンツ
コントラバス:ヘルベルト・マイヤー
クラリネット:ダニエル・オッテンザマー
ピアノ:クリストフ・トラクスラー 

プログラム
ギュルトラー:Noriet Saule Vakara
ギュルトラー:Judz Tautietis
ショパン/コンツ編:プレリュード
コンツ:Ciocarlia
ティルセン/ギュルトラー編:アメリのワルツ
ラヴェル/コンツ編:ラ・ヴァルス
コンツ:Witch Hunt
コヴァーチ:Sholem Alekhem
ファリャ/コンツ編:Nana(子守歌)
ギュルトラー:Babarababa
ウィリアムズ/コンツ編:映画「スター・ウォーズ」より〝カンティーナ・バンド・スウィング〟
坂本龍一/咲間貴裕編:戦場のメリークリスマス
オーストラリア伝承曲/コンツ編:ワルチング・マチルダ

アンコール
J.フェリシアーノ/ギュルトラー編:フェリス・ナヴィダ
スティング/コンツ編:イングリッシュマン・イン・ニューヨーク

Picture of 山田 治生
山田 治生

やまだ・はるお

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

連載記事 

新着記事