ヒラリー・ハーン &アンドレアス・ヘフリガー デュオ・リサイタル2024

清流のごとく美しいヴァイオリンに秘められたパッション

ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲が披露された、ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)&アンドレアス・ヘフリガー(ピアノ)のデュオ・リサイタル。こうした弦楽器公演で超満員なのは実に喜ばしい。

ブラームスのヴァイオリン・ソナタ1番から3番を演奏したヒラリー・ハーン©Dana van Leeuwen Decca~
ブラームスのヴァイオリン・ソナタ1番から3番を演奏したヒラリー・ハーン©Dana van Leeuwen Decca~

ハーンの世界一ともいえる完璧さは不変だ。不純物皆無の音質、音程、音長や音像など、まさに非の打ちどころがない。むろん彼女のことだから、荒ぶったり取り乱したりすることはなく、終始端正でプロポーションの良い音楽が創造される。とはいえ、表情は細やかで、曲の特質に沿ったパッションや力感が自然に生み出されていく。
前回の共演では単独爆走型のピアノが疑問視されたヘフリガーも、今回はハーンと協働する意識が伺えた。とはいえ、とかく音が濁る傾向にあり、清流と濁流が混じり合うような場面もなくはない。だがそれは、清流=ハーンのヴァイオリンのあまりの美しさゆえでもあろう。
3曲の演奏順も印象を左右するが、今回は1、2、3番の順。そのためか、1番はしっとりとして落ち着いた演奏、2番は流麗にして動的な演奏、3番はそれに力強さを加えた演奏が展開され、3曲の変遷や性格の違いが明確に示された。中でもじっくりと奏された各曲の緩徐楽章は絶品で、特に3番の第2楽章のたっぷりとした中に漂うしみじみとした味わいは出色。普段影の薄い3番の第3楽章の存在意義を明示する脈動感にも感心させられた。
全体に見れば、超一流奏者が弾く〝ヴァイオリン〟ソナタの美感を堪能したコンサート。

(柴田克彦)

舞台袖にて。ハーンとピアニストのアンドレアス・ヘフリガー 写真提供:ジャパン・アーツ
舞台袖にて。ハーンとピアニストのアンドレアス・ヘフリガー 写真提供:ジャパン・アーツ

公演データ

ヒラリー・ハーン &アンドレアス・ヘフリガー デュオ・リサイタル2024

2024年5月16日(木) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール 

ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
ピアノ:アンドレアス・ヘフリガー 

プログラム
ブラームス:
ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 Op.78「雨の歌」
ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 Op.100
ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 Op.108

アンコール
ウィリアム・グラント・スティル:マザー&チャイルド

 

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柴田克彦

しばた・かつひこ

音楽マネジメント勤務を経て、フリーの音楽ライター、評論家、編集者となる。「ぶらあぼ」「ぴあクラシック」「音楽の友」「モーストリー・クラシック」等の雑誌、「毎日新聞クラシックナビ」等のWeb媒体、公演プログラム、CDブックレットへの寄稿、プログラムや冊子の編集、講演や講座など、クラシック音楽をフィールドに幅広く活動。アーティストへのインタビューも多数行っている。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)。

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